厚労省が昨年発表した全国調査によれば、日本では約2800万人が「腰痛」に苦しんでいると言う。腰痛の痛みについては、その大半が原因がわからないという現状について、ジャーナリストの鵜飼克郎氏がレポートする。
* * *
日本整形外科学会・日本腰痛学会が発表した最新の『腰痛診療ガイドライン』(2012年11月)では、「腰痛の85%は病理解剖学的な診断を正確に行なうことが困難」とされている。同ガイドラインの策定委員会委員長を務めた白土修・福島県立医科大学会津医療センター教授が解説する。
「背骨は一本の骨ではなく、椎骨という小さな骨が約30個重なって形成されています。お腹側の骨の間には椎間板(軟骨)があり、背中側には太い神経が通っている。病原が胸の辺りの椎骨にあるのに、腰が痛くなることもあります。複雑な構造であるため、腰痛を訴える患者のレントゲンを医師が見ても、直接の原因を特定することが非常に難しいのです」
原因が特定できないケースは「非特異的腰痛」と分類され、全体の約85%を占める。椎間板ヘルニア、脊柱管狭窄(せきちゅうかんきょうさく)症など原因が特定できる「特異的腰痛」は約15%しかない。「原因がわからない」という診断に対して不満を抱く患者も少なくないというが、白土教授はこう続ける。
「レントゲンで撮影した場合に、通常は白く写る椎間板が真っ黒になっている人が2人いたとして、一人には腰痛があってもう一人にはない、といったことがざらにあります。初診の時に撮ったレントゲンとある程度症状が回復した後で撮ったものを見比べて変化がないこともある。
『とりあえずレントゲンくらい撮ってくれ』という気持ちはわからなくありませんが、海外の研究では『レントゲン撮影は患者の満足度を高めること以外に有効性はない』とする論文もあるくらいで、特に3か月以上痛みが続く慢性腰痛の場合は画像診断では原因が特定できないことがほとんどです」
※SAPIO2014年6月号