【書評】『スクリプターはストリッパーではありません』白鳥あかね/国書刊行会/2800円+税
【評者】坪内祐三(評論家)
国書刊行会の映画本にはハズレがないが、またまた読みごたえある本が出た。白鳥あかねの『スクリプターはストリッパーではありません』だ。スクリプターとは何か? それは序章「スクリプターという仕事」に詳しいが、ある意味でそれは監督以上に重要な仕事だ。しかも日本映画史に於いて、「女性が参加した第一番目は女優、二番目がスクリプターであった」という。
だからこの本はスクリプターについての専門書として貴重であるが、それ以上の広がり、戦後日本映画史の秘話満載だ。
著者の白鳥あかねは一九三二年生まれ(父親があの大逆事件の研究家として知られる神崎清と知って私は驚いた)。新藤兼人監督のスクリプター助手を務めたのち、一九五五年、映画製作を再開したばかりの日活に入社する。
以後、日本映画の黄金時代(〈渡り鳥〉シリーズの斎藤武市監督に気に入られ四十五本もの斎藤監督のスクリプターを担当する)、ロマンポルノラインへの転進(斎藤監督の次に多く担当したのが神代辰巳だった)、そしてフリーになって例えばディレクターズ・カンパニーの人たちの現場につく(中でも印象的──「壮絶な現場」だったのは池田敏春の『人魚伝説』だ)。
数々のスターたちのエピソードも貴重だ。小林旭がスターになるきっかけは皇太子(今の天皇)を主人公に持つ映画『孤獨の人』のあるシーンで、西河克己監督が「誰か歌を歌える奴はいるか?」と尋ねた時、「ご学友役」で出演していた小林(ニューフェイスとして日活に入社したばかり)が、「ハーイ」と手を挙げ「木曾節」を歌ったことにある。
それから赤木圭一郎のスタジオ内での事故死の現場も目撃したという。ちょうど宍戸錠の初主演作『ろくでなし稼業』の撮影中だったが、「もう錠さんが泣いちゃって仕事にならないんで撮影中止になりました」。
スクリプターが映画における黒子であるように、この本も黒子、すなわち構成者高崎俊夫の腕が素晴らしい。
※週刊ポスト2014年6月13日号