近ごろ、婚姻関係を持続しつつも、別居をするなどして、夫婦それぞれが自分のライフスタイルを貫く「卒婚」が増えているという。フランスをはじめ、ヨーロッパ事情に詳しいフランス文学者の鹿島茂さんは“卒婚”という概念は日本にしかないと話す。
「フランスでは、恋愛感情と性的な関係がなくなれば、パートナー関係を解消するというのが普通です。それに、結婚・離婚の財産分与や相続の煩わしさを減らすために事実婚を認めているので、無理して結婚生活を継続するという考えがない」
日本で戦後、婚姻と家族観に大きな役割を果たしたのは“会社”といわれる。
「終身雇用制で、社内結婚を奨励し、“社内でひとつの大家族”を構成してきた。社内結婚の場合、離婚するということは、男にとっては出世の階段から転げ落ちる可能性も出てくるわけです。だから妻と憎しみ合っていても、離婚に至らなかった。そうした結婚形態を主にとっていた最後が、われわれ団塊の世代です」
会社という大家族を継いできた人が定年を迎える頃には、子供も独立している。夫婦の間に恋愛感情や性的関係がなくなったとはいえ、世間体を重視するゆえ、離婚はしたくない。その代わりに出てきたのが、“卒婚”という形態ではないかと鹿島さんは分析している。
「まあ、恋愛関係がなくなった夫婦が離婚して、欧米のように別のパートナーを選ぶということはなかなか難しいと思います。というのも、異性に声をかけるというのは、若い頃からの習慣なんですよ。若い頃にやっていない人が、子供が巣立ったからと急にできるようになるものでもない。いずれにせよ、日本も結婚の形態が変化しつつあるので、欧米のように事実婚を認める制度が整えば、卒婚という考え方も変わると思います」
※女性セブン2014年6月19日号