認知症の男性が徘徊中にJRの線路内に立ち入って起きた死亡事故について、家族らの安全対策が不十分だったとして、JR東海が列車の遅延などの損害賠償を求めた訴訟の控訴審で4月、名古屋高裁は男性の妻に約359万円を支払うよう命じた。
91歳(事故当時)の夫を85歳(同)の妻が介護する老老介護で、妻の過失を認めたこの判決は、認知症の家族をもつ人々に大きな衝撃を与えた。高齢者案件に詳しい北村真一弁護士は、この判決についてこう解説する。
「控訴審では、自宅の出入口に設置した徘徊センサーが切られていたことが過失にあたると判断された。徘徊のリスクを認識していたが、注意義務を果たしていなかったと認定されたわけです。もしセンサーを取り付けていなければ、徘徊リスクの認識がなかったとも考えられ、判断は違っていたかもしれない」
センサーを付けなければ過失が認められなかったとすれば、何か本末転倒のようにも見える。そもそも認知症の人が原因で事故が起きた場合、家族には、どこまで監督責任が問われるのか。
「法的には決まった判断はなく、賠償責任という点で考えれば、民法714条(責任無能力者の監督義務者等の責任)が適用されます。基本的には、未成年の子供を想定し、『責任無能力者』であれば、親が賠償責任を負うと規定されていますが、認知症の高齢者もこの『責任無能力者』に該当すると考えられています」(北村弁護士)
ただ、認知症といっても大人は大人なので、判断はまちまちだという。
事故ではなく、犯罪の場合はどうか。韓国では認知症患者が高齢者向け病院に放火して、21人が死亡する事件が起きたが、もし日本で同じことが起きたら、本人だけでなく、家族の責任も問われるのか。
「放火に伴う損害賠償についても、本人に責任能力があるかがポイントです。能力がないと認められれば、家族の責任を問う可能性もある。JR東海のケースと同じで、家族の過失が認定されれば、賠償責任は生じます」(同前)
公的に損害賠償をする制度や法の整備が必要なときにきているのかもしれない。
※週刊ポスト2014年6月13日号