【書評】『奇界遺産2』佐藤健寿編著/エクスナレッジ/3800円+税
【評者】鈴木洋史(ノンフィクションライター)
ページをめくるごとに眠気が吹き飛んでいく。単に奇抜な光景そのものに驚かされるからではない。その光景に剥き出しにされた人間の想像力と営みの不可思議さに目を見張り、その刺激が体中を駆け巡るのである。
書名になっている〈奇界遺産〉とは著者の造語で、〈人類の作り上げた奇妙な世界の遺産〉という意味だ。著者は4年前、世界中の奇怪で、奇妙で、奇矯で、奇抜な奇観、奇物、奇習、奇態をカメラに収め、写真集『奇界遺産』としてまとめた。本書はその続編で、あらたに世界50数か所を取材して回り、前作で取り上げたのとは別の〈奇界遺産〉を撮り下ろした。
本書に収められているのは、悲恋の伝説に基づき、海岸に乱立するペニス像(韓国)、夢のお告げに従って建てられた、巨大な竜が巻き付くピンク色の寺院(タイ)、金色の巨大な2体の大仏像と森の中を埋め尽くす1万体の仏像群(ミャンマー)、700人が暮らす、巨大な岩山に掘られた洞窟住居(イラン)、壁に8000体のミイラが埋め尽くされたキリスト教の地下墓地(イタリア)、数百体の鉄製の怪物像が眠る森の庭園(フランス)……などなど。
いずれも自然が造り出した奇観ではなく、人間の想像力(しかも多くの場合、集団が持つ無意識の想像力)が人為的に生み出したものばかりで、そこに人間の存在を強く感じさせる。
もうひとつ面白いのは、それらの奇観は多くの場合、密かにというよりも、人々の暮らしの中やすぐ隣に、あからさまに存在していることだ。つまり、それらの奇観は人類にとって遺棄すべき例外的な鬼子なのではなく、鏡の中に映った自らの姿である。だとすれば、その美しさも奇怪さも我々人類のものだ。
世界遺産ブームで世界の光景を取り上げた写真集は数多くあるが、テーマのユニークさと写真の面白さで本書は群を抜いている。
※SAPIO2014年6月号