82歳の男性Aさんが胃がんを患い、胃の全摘手術を受けたのは3年前、79歳のときだった。地元の町医者(内科医)を受診した折に、胃がんの可能性を指摘され、総合病院での検査をすすめられた。
地元総合病院で検査を受け、胃がんが判明。その病院で手術を受けることもできたが、Aさんは「もっと大きな病院のほうが安心だろう」と考え、総合病院の担当医に無理をいって紹介状を書いてもらう。
そしてがんを専門とする大病院で胃の全摘手術を受けたのだが、Aさんは手術後に主治医から意外な言葉を告げられた。
「手術後に摘出した胃を調べたところ、がんではなくアニサキス(寄生虫の一種)による肉芽腫(炎症)の部分もあったと医者から説明されました。『両者は酷似しているので正確な判断には綿密な検査が必要だが、Aさんの体力を考え、閉腹して時間をかけて検査をするよりも手術を優先した』と言われました」
Aさんは医師の言葉を受け入れるしかなかったが、好きなお酒は1滴も飲めなくなり、食欲も衰えて60kgあった体重は43kgにまで激減し、体力低下を痛感する。
「知り合いの医師に聞いた話ですが、昨今のがん手術では、術後の患者の生活の質を考え、高齢者への手術はなるべく小規模にするという考え方が主流。しかし、その有名病院は、術後のがん再発率を下げるために『疑わしきはすべて切る』という方針だということでした」(Aさん)
Aさんは、「大病院だからと信じたのがいけなかった」と後悔する日々を過ごしている。
ひと口に病院と言っても、厳密には「病院」と「診療所」の2つに大別される。入院ベッド数が0~19床は診療所で、いわゆる町医者。一方、20床以上が病院。病院のなかでも400床以上の病院を一般に「大病院」と呼ぶ。
Aさん同様、いまだに「大病院なら安心」「どんな病気にでも対応してくれる」と考える患者も多いようだが、それはもはや過去の話だ。
『「大病院信仰」どこまで続けますか』(主婦の友インフォス情報社刊)を上梓した長尾クリニック院長の長尾和宏氏は、「大病院ですべてを診てもらう時代は終わった」と断言する。
「30年前の総合病院なら、例えば内科に入院しても、外科や整形外科の病気で気になることがあればついでに診てもらい、そのまま手術を受けるということが当たり前にできた。しかし今、総合病院で提供されるのはいわば“単品コース”のみ。患者の体をトータルで診られる医師は大病院にはいない」(長尾氏)
大病院は分化が進み、例えば内科でも呼吸器内科、消化器内科、神経内科……などと細分化され、自分の専門分野以外はわからないという医師は珍しくない。
「しかも大病院は中央官庁のようなもので、横の連携が取れていない。だから、病院内で“たらい回し”と言われるような事態が起こってしまう」(長尾氏)
※週刊ポスト2014年6月20日号