拉致被害者の横田めぐみさんはどのような形で拉致され、北朝鮮でどんな生活を営み、現在はどこにいるのか。北朝鮮の欺瞞を見抜くためにも、正確な情報を得る必要がある。
ここに、めぐみさんの消息を知る手がかりとなる一枚のペーパーがある。
<拉致問題に関する分析>
そう題されたレポートには、中国情報機関が集積した拉致問題に関する機密情報が記されている。同レポートは、中国工作員の情報をもとに第三国の政府関係者が作成したものだ。レポートはこう始まる。
<横田めぐみは、党対外情報調査部(編集部注/かつて存在した北朝鮮の情報機関。通称「35号室」)の平壌市順安地域にある秘密安全家屋(招待所)に監禁。金正日の指示により金正日政治軍事大学で日本語担当教官を務めていた>
金正日政治軍事大学とは平壌に本部を置き、「スパイ養成所」とも称される工作機関だ。徹底した監視の下、将来の工作員に日本語を教えていた。
めぐみさんの精神状況は著しく乱れていた、とレポートにはある。だが1986年、韓国人拉致被害者、金英男と結婚後、<安定した>と続く。
<夫婦共々、労働党統一戦線部傘下101連絡所(党の工作機関)の指導員として配属、厳重な警備のついた市内のアパートに住むようになる>
同レポートには、このアパート場所について、<千里馬通りと推定>と記されている。千里馬通りは平壌市内を貫く代表的な大通りで、北朝鮮ではエリート階級が住むエリアとされる。
こうした破格待遇が許された背景に、<心理的に安定し、10年という検討期間を経て、ある程度の信任を得たから>と分析されている。
ただし、帰国した日本人拉致被害者たちは、徹底した監視体制のもと平壌郊外の集落で生活していたと証言している。
他の日本人被害者の待遇と明らかに異なるのはなぜか。その違いに関して、「めぐみさんは、金正日の親族の家庭教師を務め、ファミリーの秘密を握っていた」との報道が過去になされたこともあるが、レポートにはこうある。
<(夫の)金英男が党幹部との信頼関係構築に成功した>
韓国の情報機関「国家情報院」関係者が語る。
「金英男氏は、対南工作(韓国への情報工作)を専門とする特殊機関に勤めているとされています。党からは、国家への貢献も101連絡所への貢献も高く評価されている」
ただし、この関係者はこう付け加えた。
「めぐみさんとの夫婦仲は必ずしも良好とはいえず、夫婦間の諍いがあったという情報も寄せられています」
※週刊ポスト2014年6月20日号