【書評】『フード左翼とフード右翼 食で分断される日本人』速水健朗/朝日新書/821円
【評者】徳江順一郎(東洋大学国際地域学部准教授)
有名ホテル等による食品偽装事件やTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)批准を巡る日米の駆け引きなど、食に関する課題が次々と浮き彫りになるなか、本書は「左翼」と「右翼」という、ある意味、古典的なアプローチによる「食」の理解を試みている。
論の展開において著者はまず、「健康志向」と「ジャンク志向」を縦軸に据える。健康志向には「有機農業」「ベジタリアン」などが、ジャンク志向には「農薬つきの安い野菜」「ジャンクフード」などが含まれる。そして、横軸として「地域主義」を左辺に、「グローバリズム」を右辺に置く。地域主義には「地産地消」「道の駅」などが、グローバリズムには「マクドナルドなどのファストフード」「冷凍食品」などが含まれる。
その上で著者は、縦軸・横軸で区切られた4区画のうち、左上(健康志向で地域主義)を「フード左翼」、右下(ジャンク志向でグローバリズム)を「フード右翼」と定義づけ、これら2枠から外れるセルも含め、食事情の多様な事例を挙げている。
「ビーガン(Vegan。肉類だけでなく、牛乳や卵などの動物性タンパク質を一切摂取しない主義の人たち)」「ミート・フリー・マンデー運動(ポール・マッカートニーが提唱し英米で広まっている、月曜日は食肉をしない運動)」「F1種批判(F1種=数種の野菜の種を交雑し、それぞれの優性形質をかけ合わせて作られた、病害に強くサイズが均一な種。大量流通に寄与するが、その種は花が咲いても花粉ができない。そのため、自然の摂理に反した種である、と不安を抱く人も少なくない)」等々、食を巡る問題意識や主義主張はさまざまだ。
事例を通じて、著者は〈現代において、社会を動かすのは政治よりも、むしろ企業による経済行為や一般人の消費である〉と語る。
そうした思想面が、特に米国では政治姿勢にも直結しているというが、わが国でも同様な方向性が生じるかどうかは疑問が残る。ただし、自身のライフスタイルにおける食生活が、この4つのセルのいずれに偏っているか考えてみるのは一興に値しよう。根源的な問題は、食の生産現場と消費者が離れすぎてしまったことである。本書を片手に食の根源を訪ね歩くのは、その隔離を埋める第一歩になるのではないだろうか。
※女性セブン2014年6月19日号