現代美術家の村上隆のフィギュアに10億円以上の値が付けられるなど、これまで“一部のマニアのもの”として扱われてきたフィギュアに対する世間の見方もだいぶ変わってきた。しかしその価値を見出さぬ人が依然多く存在するのは紛れもない事実。離婚直後の元妻が高価なフィギュアを破壊してしまった場合、賠償を請求することはできるのか? 弁護士の竹下正己氏はこう回答している。
【相談】
結婚1年目で離婚。元妻と引っ越しの際に口げんかとなり、いつものように彼女は周囲の物を投げ散らかし、ついには私が大事にしていた塗装済み完成品のフィギュア数体(計30万円ほどの価値)をわざと床に投げつけ破壊したのです。彼女とは離婚したばかりですが、損害賠償を求められますか。
【回答】
請求できますが、口げんかの原因によっては、相当減額されます。離婚すれば、二人は何の身分関係もない他人です。他人の物を壊せば、正当防衛など特別な理由がない限り、不法行為として、壊した物の損害を賠償する責任を負います。
フィギュアが結婚前からあなたが持っていた物であったり、離婚の時点であなたに分与されることになった物であれば、元妻の行動は、あなたの財産を侵害した不法行為となります。30万円は高額ですが、元妻であり、価値を知っていたでしょうから、修復不可能な状態に壊したのであれば、同額の損害の賠償責任が発生します。
しかし口げんかの末ですから、お互い様の部分があったはずです。もともと喧嘩をすると、物を投げる性格であることを承知していたようですから、こうした危険性も予期し得たといえ、あなたの過失も大きいと思います。程度はともかくとして過失相殺されるでしょう。
過失相殺は、賠償額を公平の見地から妥当な額として算定するための道具であり、わざとした不法行為であっても、被害者側にその損害の発生に責任があれば、過失相殺されます。殺人事件でも、被害者が挑発して殺害行為の原因を作った場合には、損害の公平負担の原則から過失相殺されるのです。
フィギュアが結婚後、家計費からの小遣いで買った物で、財産分与の合意前だと、当然にあなたの物かは疑問です。夫婦共同財産の財産分与で調整されます。資産がフィギュアの賠償金だけであれば、過失相殺の前提となる損害額は、その半額が上限になると思います。
正常な夫婦で起きた場合も、理屈は同じですが、家計から弁償では、賠償請求しても意味はありません。彼女を上手に説得して、新しいフィギュアを蒐集する楽しみに切り替えた方が利口です。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年6月20日号