30年以上の長きにわたってビジネスの第一線で働き続けてきたというのに、定年すると「無職」と呼ばれるのは辛い。欧米では、引退した人間は「retired(リタイアード)」と呼ばれ、社会に貢献してきた老人たちへの尊敬の念が込められている。しかし日本では「無職」とひとくくりにされる。バリバリ働いてきた人には屈辱的だ。
この「無職」という呼称に象徴されるように、リタイアした高齢者を取り巻く環境は非常に厳しいものだ。取材をすると、その哀しき実態が明らかになってきた。
【「逃げ切り世代」と呼ぶな】
定年世代には、金の遣い方にも厳しく冷ややかな視線が向けられている。若い世代からの風当たりが強いと感じているのは、関東在住の元会社員(68)だ。
「年金を切り詰めて、年に1~2回、妻と海外旅行に行くのが唯一の楽しみなんです。グアム、台湾……、海外と行ったって、その程度の近場ですよ。なのに若いヤツラは“いいよなァ~、逃げ切り世代は”っていうんです。我々にはそんな贅沢も許されないのか!」
気遣いがないのも腹が立つが、妙な気遣いをされるのもありがた迷惑だ。
【「高齢者用ケータイ」ばかり薦められる】
65歳の元教師は、ケータイショップでの店員の対応に憤慨した。
「教え子と同窓会で会う機会があるので、フェイスブックやLINEで、やりとりできたら楽しそうだと思いまして。それで“スマホに機種変更したい。やっぱりiPhoneかな?”と店員に相談したんですよ。そしたら“いや~、あれ設定とか何かと難しいんスよ。絶対こっちがいいです”と、いわゆる高齢者用のガラケーを薦めてくる。
こっちも意地があるんで、無理矢理スマホを買ったんですが、そいつに使い方を教えてもらうのも腹が立つ。結局今も詳しい使い方は手探りという哀しい状況です」
こういった「決めつけ」は、いろんな局面で起こる。アパレル店に行けばベージュやグレーの服ばかり薦められたり、飲食店では気を遣われて量を少なめにされたり……。勝手に「老人」に仕立て上げられるのだ。
※週刊ポスト2014年6月20日号