安倍晋三政権になって国民の個人金融資産は過去最高の1645兆円(2013年末)へと約100兆円も膨らんだ。
「我が国の個人金融資産は世界一、対外純資産も世界一、こういった巨大な金融資産から成長分野への資金供給を考え、アジアナンバーワンの市場構築に取り組んでいかねばなりません」
麻生太郎・副総理兼財務大臣は昨年9月の証券業大会でそんな大風呂敷を広げ、今年1月からは100万円までの株投資の利益を非課税にする少額投資非課税制度(NISA)を導入した。
ならば、国民が増えた金融資産の1割(10兆円)を消費に回すだけで、GDPを2%押し上げ、増税不況は吹き飛ばせるはずだ。
しかし、そんなにうまくはいかない。個人金融資産が増えたカラクリにその理由がある。
国民の給料が上がり、生活に余裕ができて給料を貯蓄などに回したから金融資産が増えたのであれば、「欲しかったあの商品を買おうか」「家族旅行に行くか」という気にもなるだろう。
そうではない。2012年末から2013年末までにどんな資産が増加したかの内訳を見ると、「株式」が106兆円→155兆円(39%増)、「投資信託」が61兆円→79兆円(28%増)と大幅に増えているのに対して、国民が広く浅く保有している「現金・預金」は854兆円→874兆円とわずか2%しか増えていない。
個人金融資産が増えたといっても、その恩恵を受けたのは株に投資した人たちだけなのだ。
総務省の家計調査でも、1世帯あたりの平均貯蓄額は1739万円だが、実は、半数近くの世帯は貯蓄1000万円以下で、500万円以下が3分の1に達する。金融資産を株の運用に回せる人はそう多くないのが現実だろう。
つまり、大儲けしたのは保有株を大量に売却したソフトバンクの孫正義社長や楽天の三木谷浩史社長のような、もうこれ以上、買う物はないような大資産家たちで、欲しいものを買わずに我慢している庶民には縁遠い話なのである。
政府はNISAの限度額を200万~300万円に引き上げることを検討し、“にわか投資家”を株式市場に呼び込もうとしているが、うかつに麻生大臣の“口車”に乗って素人がこれから株に手を出すと、上がりきった株を高値でつかまされるのがオチである。
※週刊ポスト2014年6月20日号