「テレビに出ていたあの俳優、なんて名前だっけ?」「そういえば、今朝なにを食べたっけ?」……最近物忘れが激しくなったというシニア世代にとって、「将来自分が認知症になるかどうか」は最大の関心事といえる。「『認知症』について現在わかっていることの全て」と題した本誌の記事は大反響を呼んだ。
認知症の傾向や予防策に関するさまざまな最新の研究データを紹介した記事のなかで、もっとも注目を集めたのが、軽度認知障害(MCI)の判別法だった。
MCIは、加齢による物忘れと認知症の間にあるグレーゾーンで、認知症予備軍ともいわれる。厚労省の調査によると、現在認知症の高齢者462万人に対し、MCIは400万人と推計されている。65歳以上の高齢者のうち4人に1人が認知症あるいは予備軍のMCIという計算なのだ。工藤千秋・くどうちあき脳神経外科クリニック院長はこう語る。
「加齢による物忘れとMCI、認知症の3段階を、それぞれ見極める必要があります。物忘れと認知症・MCIの違いは、『生活に支障が出るかどうか』です。ただ人の名前が出てこない、などではなく、たとえば料理をしているときに、電話がかかってきたなどの特別な理由もなく鍋から手を離して、それを忘れて鍋を焦がしてしまった場合などは、認知症やMCIを疑った方がいい。
そして認知症とMCIの差ですが、忘れたことを反省するかどうかが一つの目安になる。認知症もMCIも、鍋を焦がすことは同じですが、MCIの人の場合、『気をつけてたんだけど』といってそのミスを反省します。認知症だとさらに進んで、『そんなことあった?』とミスしたことすら覚えていない。いずれにせよ認知症・MCIとも生活に支障が出るので、専門医の診断が必要になります」
MCIは多くの場合、自分自身も周囲も普通の物忘れと思い込みがちだが、MCIの約半数が5年以内にアルツハイマー型認知症を発症するという研究データもある。認知症は一度発症すれば、抜本的な治療法がないため、投薬などにより進行を遅らせることはできても、完治することはない。
だからこそ、MCIの段階でいち早く気づき、認知症になる前に手を打つことが重要なのだ。
※週刊ポスト2014年6月20日号