新聞が政権べったりの報道に走るのはなぜか。記者クラブ制度にあぐらをかき、「出入り禁止」処分が怖いからだ。その結果、メディアを自分たちの子分と思い込んだ役人はかつてなく増長している。ジャーナリストの武冨薫がレポートする。
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オバマ大統領が来日する直前の4月20日、読売新聞は日米首脳会談の最大の焦点であるTPP(環太平洋経済連携協定)の交渉について1面トップでこんな“スクープ”を飛ばした。
<牛肉関税「9%以上」TPP 日米歩み寄り 共同声明「大きく前進」明記へ>
TPP交渉で日本に農産物の関税をゼロにするように要求する米国に対し、安倍政権はコメ、麦、牛肉・豚肉など主要5品目の関税を「死守する」(甘利明・経済再生大臣)と国民に約束していた。
読売の報道は、牛肉の関税を<現在の38.5%から、少なくとも9%以上とすることで折り合った>と日本側の大幅譲歩で話がついているという交渉の舞台裏を暴露する内容だった。
甘利大臣は表向きは米国への「強硬姿勢」をアピールしていただけに、事前に譲歩していたという報道で面目丸潰れとなった。
すると翌21日に担当の澁谷和久・内閣審議官が緊急会見を開き、
「日米とも何一つ合意していない。積み重ねたガラス細工が報道で壊れた」
と読売報道を否定し、まるでTPP交渉が難航しているのは読売のせいだとばかりに激怒した。さらにその上で読売の記者には大臣室への「出入り禁止」という“処分”が下された。この措置が解除されたのは5月の大型連休が明けてからだった。
記者クラブの記者は役所から情報をもらって記事を書く。「出禁」になれば、記者が役人に取材に行っても「いま出禁中でしょう」と応じてもらえない。
新聞社は他紙がみんな報じているのに、1紙だけ記事を漏らしてしまう「特オチ」を恥とする体質があるから、役所の情報遮断を極度に怖れる。本来ならば独自取材で他紙が報じないニュースを報じればよいのだが、その取材力もない。
役人にすれば出禁は報道をコントロールする最も有効な手段なのだ。1紙を出禁にすれば他の新聞記者も処分を怖れてその問題について書けなくなるという効果もある。
結果、特オチを恐れた読売はその後4月23日の紙面で牛肉の関税について<20年程度かけて少なくとも「9%以上」とすることで歩み寄りつつある>と大きくトーンダウンした記事を書いた。
※SAPIO2014年7月号