【書評】『スペードの3』朝井リョウ/講談社/1620円
【評者】内山はるか(SHIBUYA TSUTAYA)
著者は『桐島、部活やめるってよ』で2009年小説すばる新人賞を受賞しデビュー。同作は映画化され、映画も好評価を得ています。2013年『何者』で第148回直木賞を戦後最年少で受賞。そして本作『スペードの3』で、初めて社会人を主人公に描きます。
ミュージカル女優・つかさのファンクラブ「ファミリア」の幹部を務める美知代は、大手化粧品会社で働いていると周りには言っているものの、実際は関連会社に勤務。補充商品の取りまとめなど事務業務をこなす毎日にすぎない。彼女が生きがいを感じられるのは、「ファミリア」内でだけ。
そんなある日、美知代の小学時代のクラスメートが「ファミリア」に入会してきた。そして彼女はあっという間にクラブの注目の的になっていく。「ファミリア」での立場が危うくなりつつある美知代。自分から人が離れていく焦燥感にかられて…。
まるで生きているかのようにうねりまくる髪の毛に悩む、小学校では地味で冴えなかったむつ美。どうにか変わりたいと思いながら中学生活を送る日々。
かつて人気を誇っていたミュージカル女優つかさ。女優として、旬は終えてしまったのか? 仕事のオファーも最近は少なくなった。
この3人の人生が交差する時、くすぶりかけていた人生を変える一歩を踏み出す。彼女たちのこの先は…。
小学校時代から女子特有の腹の探り合い、嫉妬、ひがみは出てくるものです。考えてみると、その頃の人間関係って難しかった気がします。美千代の小学時代の揺れ動く気持ち、焦燥感、つかさが同期の円に抱く思いなどとてもリアルに感じます。
男性が書いているとは思えないほど女の本音と建前が見事に描かれていて、登場する女性たちにどこかしら自分との共通点を見つけてしまいます。
見透かされているようでドキッとします。目をそらしたくなる思いがしました。今の自分がよくないことがわかっていてもなかなか自分を変えることは難しいです。
自分は周りに何かを期待していないか? 人生を動かすのは誰でもない、自分自身なのだ!と著者が背中を押してくれます。
※女性セブン2014年6月26日号