アベノミクス効果で高額消費の傾向が取りざたされる昨今。その一方で、「イエナカ消費」、「巣ごもり消費」といった若者の消費行動からくる“若者の○○離れ”が叫ばれて久しい。
だが、巷でいわれるほど若年層の消費意欲は減退しているわけではない。6月17日に『若者は本当にお金がないのか? 統計データが語る意外な真実』(光文社新書)を上梓したニッセイ基礎研究所・生活研究部准主任研究員の久我尚子さんに、○○離れのウソを検証してもらった。
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【若者のクルマ離れ】
若年単身世帯の自動車保有台数は、男性で1994年をピークに減少傾向にあるとの調査が出ていますが、一般財団法人「自動車検査登録情報協会」によると、全世帯の自動車保有台数は1960年代から現在まで増加し続けています。
若者のクルマに対する意欲はどうなのか。日本自動車工業会が実施した実態&意識調査(2008年)で興味深い結果が出ています。18~24歳の大学・短大生の自動車免許保有率は、男性が73.4%、女性が58.3%あり、取得意向者と合わせると潜在的な免許保有率は男性で92.4%、女性でも85.9%に及びます。
ただ、クルマを実際に購入することを考えると、大都市に住んでいる男性をはじめとして、クルマに乗りたい意識はありつつも購入には結びつきにくいのが現状のようです。
なぜなら、昔と比べて特に大都市で公共交通機関が充実したこと、核家族化・少子化の進行によって家族とのクルマの共有もしやすくなったこと、ネットの普及などによってクルマ以外に興味・関心の対象が広がったことで、単身勤労者世帯の男性ではクルマの保有率が低下しています。
一方、可処分所得が増加している単身勤労者世帯の女性ではクルマの保有率は上昇しています。つまり、大都市に住む男性でやや「クルマ離れ」が起きているようですが、地方居住者や女性では購入意向が強く、以前と同様に高水準にあるのです。
【若者の海外離れ】
20代の海外渡航者数が減少し、「今の若者は海外へ行かない」、「内向き志向が強い」などという声をよく聞きます。しかし、若年単身世帯の男性では旅行の支出はむしろ増えており、必ずしも「海外離れ」をしているとはいえません。
確かに法務省調査(出入国管理統計表)によると、20代の出国者数は減少しています。ただ、1975年生まれ以降は少子化が進行した世代なので、正確にデータを読み解くためには「渡航者数」ではなく「渡航者率」で見るべきなのです。
そこで、20代の出国者率を調べてみると、2008年ごろまで低下傾向が続いていましたが、2009年以降は上昇に転じています。2012年には23.4%まで上がり、1990年代のピーク時に次ぐ高水準となっています。
海外旅行者数もここ数年は増加が続いており、2012年は1849万人と、2000年の1782万人を超えました。その背景には、リーマン・ショック後の景気の冷え込みが落ち着いたことや、LCC(格安航空)の台頭による航空料金の低下などが挙げられます。