世の中に痔で悩む人は相当数いるといわれるが、正確な数はわからない。一般的に痔は、裂肛(れっこう、切れ痔)、痔核(イボ痔)、痔ろうに大別される。中でも患者が一番多いのが痔核だ。痔核には直腸にできる内痔核(ないじかく)と、肛門にできる外痔核がある。直腸粘膜には知覚神経がないので、内痔核は痛みを感じないが、肛門には知覚神経が集まっており、外痔核や裂肛は痛みを感じる。
かつて痔核の治療は、内痔核と外痔核ともに痔核の根元を糸で縛り切除する結さつ切除(LE)が主流だった。根治性は高いが術後の痛みがあり、さらに手術した傷からの出血など合併症のリスクがある。そこで1週間から10日程度の入院が必要だった。
内痔核治療法研究会代表世話人の岩垂(いわだれ)純一診療所(東京都中央区)岩垂純一所長に話を聞いた。
「脱出する内痔核を対象として、2005年に保険承認されたのがALTA治療です。手術するのではなく、内痔核を4か所に分けて、各々に適量の薬剤を注射するだけということで、全国に普及しています。今や年間約5万人の方が治療を受けています」
内痔核に注射された薬剤は徐々に内痔核内の血流を遮断し、かつ急性炎症を起こさせる。その後、慢性の炎症が起こり、痔核が線維化し、硬く小さくなり、周囲に貼りつく。この治療は、痛みや出血がほとんどなく患者の負担が少ないのが特徴だ。
しかしALTA治療は、術後1年で4.6%、2年目が7.8%、3年目は約10%と再発率が高いことが問題だった。再発率が高い原因は、患部の状態に関係している。痔核の患者は、脱出した内痔核と外痔核の両方を持つ内外痔核がほとんどだ。そのためALTA治療で内痔核は治療できても、外痔核が残るため、どうしても再発率が高くなる。そこで近年、LEとALTAの両方を行なうことで、根治を目指す併用療法が始まっている。
「治療に際しては、まずは内痔核と外痔核を明確に鑑別する必要があります。中には内痔核が肛門から脱出し、外痔核を巻き込んで肥大して、外痔核との見極めが難しい症例もあります」(岩垂所長)
内痔核と外痔核を明確に鑑別した後で、外痔核に対してはLEを行ない、内痔核にはALTA治療を実施する。併用療法は傷が小さく、術後の痛みも少ない。ALTAの止血作用のためか出血も起きにくい。
ただし、ALTA治療を外痔核に使用すると激しい痛みを生じる。さらに薬剤が痔核以外の組織に浸潤(しんじゅん)すると、直腸潰瘍など合併症が起こることもあるので、数多くの症例を手がける専門医の受診が不可欠だ。この施設では、麻酔専門医による静脈麻酔のため、ALTAだけでなく、LEとの併用療法でも日帰り手術で対応している。
■取材・構成/岩城レイ子
※週刊ポスト2014年6月27日号