週刊ポストで野球人の本音や人物像を描く『白球水滸伝』を連載してきたスポーツライター・永谷脩氏(享年68)が、6月12日、急性骨髄性白血病のため逝去した。6月14日と15日、鎌倉市内の斎場で執り行なわれた通夜、告別式には、会場の収容力を大幅に超える500人以上が詰めかけた。
権藤博氏、江夏豊氏、山田久志氏、東尾修氏、山下大輔氏といった大物OBに加え、キャスターの森本毅郎氏、荒川強啓氏ら各界の著名人も参列。祭壇には、王貞治・ソフトバンク会長をはじめ、巨人・原辰徳監督、ソフトバンク・秋山幸二監督、楽天・佐藤義則監督代行らに混じって、清原和博氏、イチローといった球界関係者のほか、多方面からの献花が所狭しと並んだ。
弔辞を読んだのは、西武ライオンズや福岡ダイエーホークスなどで球団代表を歴任した坂井保之氏。
「あなたはライターとして硬派を自任しておいででした。しかしその実、あなたは愛の人でした。もっと野球談議がしたかった──」
参列した東尾氏が語る。
「彼と知り合ったのは、ライオンズがようやく強くなってきた1970年代終わり頃かな。その頃も、江夏さんとか山田さんとか、その時々の球界で“旬”の人には必ず食い込んでいたね。
組織に属さない永谷さんは、個人で信頼を勝ち取らないといけない。そこをあの人は、持ち前の茶目っ気のある性格と一生懸命さで人脈を築いてきた。やっかみをいう新聞記者もいましたよ。でもそんな時僕は、お前ら組織に守られてやっている人間と彼は違うんだといってやった」
永谷氏は自らを「野良犬」と呼んだ。そこには「一匹狼」では格好良すぎるという照れがありながらも、誰かに飼われることなく、1人で戦い抜くという決意が込められていた。
だからこそ自らの経験と直感を信じ、スポーツ報道にありがちな“空気”に流されることなく信念を貫いた。そんな永谷氏にしか書けない選手たちの本音、事件の真相──それはまさに球界の歴史そのものだった。
※週刊ポスト2014年7月4日号