【書評】『幕末明治の歴史風俗写真館』石黒敬章/角川学芸出版/1600円+税
【評者】嵐山光三郎(作家)
幕末明治の写真を収集、研究している石黒敬章が、またまた貴重な写真を発掘しました。今回の傑作は日本で初めて撮影された明治二十年の皆既日食写真。衝撃をうけたのは明治二十九年の三陸大津波の48枚の記録写真です。陸へ打ちあげられた船、津波で建物をさらわれた町の残骸は、3.11の被害をホーフツさせます。
こういった貴重な記録のほかにヌード・ポルノ写真がある。ダゲールという人が1839年に銀板写真術を公開すると、すぐにヌード写真が撮影されました。人間が考えることはみんな一緒ですね。
日本には春画の浮世絵がありましたが、日本の写真の開祖下岡蓮杖もヌード写真を撮っていた、と石黒氏は推理している。ポルノ写真はご法度だったので撮影者がわかる写真館のスタンプが押されていないのです。
明治のポルノ写真は外国人のみやげ用として売られていたため「着物姿の芸者と半裸の女」というパターンが多い。日本人娘の夏の昼寝の写真。下岡蓮杖の一番弟子・横山松三郎が撮影した「湖畔の情事」は明治初期ポルノ写真の傑作。春画とは違う「写真」というところにリアルがある。
みやげ用ポルノには家庭風呂場四人娘シリーズがあって、ひとりは木桶風呂につかって上半身をさらし、ふたりの女が桶の前で半裸姿で洗い、ひとりの女が筒を吹いて風呂の湯をわかしている。
日下部金兵衛が撮影した四人娘ホームバス写真は、人気の定番写真となり、レタッチして、手彩色もして、なかには顔を別の美人にさしかえたりした。ヘアヌードもあって母と子と並んでヘアを見せている。西洋椅子で開脚して、わき毛から下の毛まで見せている。やってますよ。
石黒敬章は、ロンドンへ出かけて貴重な写真を買い求め、明治時代の写真術を分析して、人々が写真を通じてなにを求めていたかを研究している。写真の力はなんといっても報道だが、だれもが興味を持つのは、やっぱり女性ヌードなんですよ。
※週刊ポスト2014年7月4日号