5月下旬、新聞各紙は「国民年金の納付率、4年ぶりに60%台に」と報じた。厚労省が発表している納付率は2010年度に60%を割り込み、2012年度は「59.0%」。それが2013年度に回復したというのだ。
手元に、一般には公表されていないA4判1枚の厚労省資料がある。そこに記された実際の納付率は60%どころか「39.9%」(2012年度)となっている。トリックは子供騙しというほかない。
政府はここ数年、保険料納付の免除者(373万人)や学生などの猶予者(214万人)を国策でどんどん増やしてきた。その合計は約600万人。国民年金保険料を納める自営業者などの「第1号被保険者」は2013年3月末で1864万人いるから、3分の1が「払わなくていい」人になっている。その「全額免除」「猶予」の分は納付率の計算から除外されているのだ。この資料を厚労省に提出させた河野太郎代議士が指摘する。
「厚労省は、納付率を高くするためには分子である『納付者』を増やすのではなく分母を減らすほうが手っ取り早いと考えているのでしょう。今回入手した資料では、免除者を分母に加えた場合の納付率は2007年度の47.3%以降、回復傾向どころか一貫して下がり続けています」
6月4日には、「さらに分母を減らす」ための法律も成立した。現在、30歳未満の低所得者の保険料を猶予する「若年者納付猶予制度」というものがある。その対象年齢を「50歳未満」へ引き上げる法律で、今年10月から施行される。30~40代の非正規労働者が増えているからというのが建前だ。高齢化が進んでいるとはいえ、49歳を「若年者」と見なすとは、その発想に恐れ入る。
「猶予」を受けた期間については将来の年金額には反映されない(免除が認められた場合は一部反映される)。猶予された分は追納できるが、現在月1万5000円の保険料を払うのが困難な人が、数年後に数十万円の保険料を納められるケースがどれだけあるのだろうか。結局払うことができず、将来の無年金者が増えることは目に見えている。
つまり厚労省は自分たちの成績(納付率)を上げることに懸命なだけで、払えない人をどうフォローしていくか、空洞化しつつある年金制度をどう根本的に変えていくかという点はまったく無視しているのだ。
「前回2009年の財政検証では、国民年金納付率が『80%』になるという前提で計算していました。もちろん80%には届きませんが、厚労省は前回の財政検証と辻褄を合わせるために『納付率は回復しつつある』といいたいのでしょう」(河野氏)
「年金博士」として知られる社会保険労務士・北村庄吾氏は「政府は納付率を高めに見せて、年金は安心であるということを訴えたいのではないか」と見る。
※週刊ポスト2014年7月4日号