尖閣諸島などでの有事が懸念されるが、そうした場合、兵士の数や兵器のスペックだけでなく、部隊の持つ力を効率よく発揮できる作戦の運用・遂行能力や後方支援体制が勝負を決する。
東日本大震災は自衛隊の課題を明らかにした。最たるものが輸送能力だった。
被災地が深刻な燃料不足に襲われる中、燃料の海上輸送は難航。海自はタンクローリーを運べる大型輸送艦(おおすみ型)を3隻持つが、修理中と海外訓練中が1隻ずつで、すぐ被災地に向かえたのは1隻だけ。民間フェリーの活用で急場を凌いだが、敵の標的になる有事の弾薬・燃料輸送に民間船が使えるかは疑問だ。
また、燃料を積んだ海自の大型輸送船とは別に、陸自部隊は独自に陸路で被災地へ向かうなどした。陸海空の統合運用がスムーズになされない非効率な輸送も有事では致命傷になる。
陸自は南西諸島の有事には北海道を含めた全国の部隊を前線に投入する構想を持つが、「震災対応では道東を拠点とする第5旅団が北海道を出港したのが3月16日。出発するだけで5日もかかった」(防衛省関係者)という。米軍では軍種横断的に編制された「輸送軍」が陸海空軍の効率的かつ迅速な輸送を一手に担うが、自衛隊にはそれにあたる組織がない。
後方支援の拠点も足りない。元自衛隊1等陸佐の佐藤正久・参院議員が指摘する。
「離島防衛・奪還では特に後方からの滞りない補給が非常に重要ですが、物資や人員を集結できる拠点で尖閣に最も近いのは空自が420km離れた那覇、海自は1100km離れた佐世保です。その距離の空路、航路の安全を確保することは容易ではありません」
尖閣から中国本土までは近いところで300km。東シナ海を中国の大量の艦船や戦闘機で押さえられれば、日本の補給線が断たれる恐れがある。
※SAPIO2014年7月号