長年、育児、子育てについて取材や執筆に携わり、講演もし、母と子を取り巻く環境の変化を敏感に捉えてきた、詩人でエッセイストの浜文子さんは、現代の子育てについてそんな憂いを感じている。
「今の時代、子育てがどんどん“作りもの”めいてきています。本来、子育てとは手をかけ、心を砕いて、自然な情愛で子供の心身を育んでいくもの。ところが、わが子への話しかけ方までがマニュアル、プログラム、こんな言葉で、品物の管理をするような子育てが流行しています」(浜さん・以下「」内同)
浜さんはこのたび、『母の道をまっすぐに歩く』(小学館)を上梓した。同書は、「子供はみんなお母さんが大好き」という視点に立って、アカデミックな育児理論に惑わされず、自分の感じ方を第一に子育ての日々を楽しんでほしい、という思いにあふれた書。子育てに追われる母親である人生に自信と誇りが持てる一冊だ。浜さんはさらに続ける。
「以前から、子育ての場で産後うつ、ノーバディーズ・パーフェクト運動、その他、海外発信の育児情報を日本でアカデミックに暮らしに取り込む流れが盛んです」
産後うつに関しては、産後の情緒不安定な状態などをチェックリストで調べる方法で、早くから虐待に取り組んできた英国の方法論が取り入れられている。日本の研究者が医療現場に紹介したことで、行政主導で全国に広まった。
「産後うつがメディアで紹介されたことで病気のように扱われますが、出産直後のお母さんが、母になった喜びと同時に、“未熟な私がこの子を育てていけるのかしら”としばらく不安にかられて悩むのは、人として当たり前のことなんですよね。さまざまな思いを重ねて母になる。そんな生活というものへの視点が欠けています。
行政が動き、メディアが取り上げる。するとその結果、私が講演に行く先々で“産後うつなんです”と、相談に来られる投薬中のお母さんたちの長い列ができるようになる。なかには初産の後、医師の指導で薬を5年のんでいて次の子をつくるのを止められ悩んでいるという人もいる。人生を専門家の判断にすべて委ねる発想が広まっていいのでしょうか。
私は、産後うつなんて呼ばないで、“母・初舞台期”と呼んでみたらどうかと思うんです。心は言葉で表現された方向に定まるものですから。
私は20年前から変わらず、どんなお母さんであれ、子供は大好きでいてくれる。だからそのままで、ありのままのあなたでいいのよ、と言い続けてきました。
当時は専門家のかたに批判されましたが、今になってノーバディーズ・パーフェクト運動の呼称で、“親は完全でなくていい”という発想がカナダから日本へ取り込まれています。今は映画の影響でみんなが“ありのままでいい”って言っていますが(笑い)」
※女性セブン2014年7月10日号