サッカーW杯ブラジル大会、結果は残念なものだったが、まずは精一杯戦った日本代表を心から労いたい。世界の強豪国の選手たちですら足が攣って、続々とピッチに倒れ込むような過酷な環境の中、日本の選手たちは最後まで諦めず、誇りを持って戦い抜いた。
しかし世界の壁は我々の想像以上に高く、険しいものだった。主将・長谷部誠はコロンビア戦の後、「力不足。それ以上でも、それ以下でもない」と潔く言い切った。結果的に1勝もできなかったブラジルでの戦いだが、収穫がなかったわけではない。むしろ今後の日本代表の課題がハッキリわかったといっていい。
結論からいおう。敗因は本田圭佑という「王様」の存在だった。本田が戦犯だといっているわけではない。彼はコートジボワール戦でのゴール、コロンビア戦でのアシストと、今大会の得点すべてに絡んだ。本田がいなければ3戦無得点という悲惨な結果を迎えていた可能性も高い。
問題は「王様」の存在を許したチーム全体、そして“あの時”と同じ轍を踏むことになった日本サッカー界にある。
コロンビア戦後、サッカーファンの間では、こんなフレーズが飛び交った。
「ドイツの時と、何もかもが同じだった」
ブラジルW杯の3試合の経過は、奇しくも8年前、ジーコ監督で臨んだドイツW杯と重なる。初戦の逆転負け、必勝を期した2戦目の痛恨のドロー、そして3戦目に南米の強豪国に大敗。特に最後のコロンビア戦は、ドイツW杯でのブラジル戦と、1―4(前半1―1、後半に3失点)というスコアまで同じ。
しかも勝負の決まった後半、相手ゴールキーパーが交代するという屈辱(ケガや退場などがない限り、キーパーの交代は滅多に行なわれない)を味わわされたことまで、ブラジル戦と重なる。
大会前、チームが「史上最強」といわれた点も共通する。ザックジャパンでは長友佑都、香川真司、岡崎慎司ら欧州組を中心に編成。一方のジーコジャパンは、中村俊輔に加え、小野伸二、稲本潤一に代表される、いわゆる「黄金世代」を軸に据えた。
そして最も大きな共通点が、チームに「王様」がいたことである。今回は本田、ドイツでは中田英寿。2人は、それぞれの世代における日本代表で傑出した存在だった。
中田はまだ日本人サッカー選手の海外挑戦が一般的でない時代に、いち早く日本を飛び出してイタリア・セリエAに移籍し、実績も残した。
本田もJリーグで3年間プレーした後にオランダ、ロシアで活躍、今ではイタリアの世界的な名門クラブ「ACミラン」で、エースナンバーの10番を背負う。
ともに独特のファッションセンスを持ち、“ビッグマウス”といわれる発言が注目される点も同じ。そして何より、ジーコ、ザッケローニ両監督は彼らをチームの核にすると公言し、何があっても中田、本田を中心に戦術を組み立てた。
※週刊ポスト2014年7月11日号