東京のとある繁華街に、グルメ雑誌で頻繁に目にする「焼きとん」の店がある。本誌記者が訪れたその夜も満席だった。コの字型テーブルの内側にある調理場は、せわしなく動く店員の活気にあふれ、店内には酔客の嬌声がこだましていた。
「ええと、とりあえず生ビールと、レバ刺し!」
「ハイ、レバ刺し一丁! 本日これで売り切れで~す!」
開店からわずかな時間しか経っていないのに、早々の完売。客の多くが最初に頼んだのは看板メニューの「豚レバ刺し」だった。
「2年前に牛レバ刺しが禁止になって、普通の焼肉屋で食べられなくなってから“レバ刺しを食べに来ました”というお客さんが前より多くなりましたね」と店員はいう。
しかし近い将来、この光景は見られなくなる。厚生労働省は6月、飲食店での豚レバ刺し提供を禁止する方針を決めた(実施時期は未定)。2012年7月の牛レバ刺し禁止に続く第2のレバ刺し規制となる。
今や、牛レバ刺しは完全に姿を消した。規制以降、違反した業者には2年以下の懲役または200万円以下の罰金という厳罰が科されることになったからだ。
焼肉屋のメニューからは「牛レバ刺し」の文字が消え、“闇レバー”を提供した業者の摘発も相次いだ。「上レバー焼き」という名前で出していたのに、ごま油に塩のタレとショウガという「レバ刺しの必需品」を同時に提供していたから「クロ」と判断されたケースもあった。
そんな「牛レバー狩り」を受け、レバ刺しの濃厚な旨味が忘れられないファンの一部は、冒頭の焼きとん屋のように豚レバ刺しを提供する店に殺到したのである。
「牛レバーのほうが旨いし、豚の生食が危険なことなんてわかっていますよ。でも、牛レバーが食べられないなら仕方がない。僕らにできることは、できる限り信頼できる店を選ぶことだけです」(常連客)
しかし、厚労省は新たな規制で、この流れを断ち切ろうとしている。厚労省は、豚レバーの規制について、E型肝炎への感染のほか、サルモネラ属菌などの食中毒リスクがあるためと説明している。
「牛のレバーを禁止した直後に、牛が駄目なら豚のレバーをと、事業者の方が考えて飲食店で提供されているという実態があった。そのため何かしらの規制が必要ではないかということになり、過去4回開かれた『食肉等の生食に関する調査会』で決められました」(厚労省・医薬食品局食品安全部基準審査課)
牛レバーと同様の厳罰が科される見込みという。
※週刊ポスト2014年7月11日号