習近平体制となった中国では治安維持予算が膨れ上がっている。25年前の天安門事件を現地で取材したジャーナリスト・相馬勝氏は習主席が「次なる天安門事件」を恐れていると指摘する。
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中国では治安維持対策が焦眉の急となっている。それを端的に示したのが4月中旬の中央国家安全委員会の初会合だった。
同委トップの習近平は会議の冒頭、重要講話を行ない、「総体的国家安全観」という新しい概念を提起。分かりにくいものもあるが、「政治(安全)、国土、軍事、経済、文化、社会、科学、生態、資源、核、情報、伝統、非伝統」の13項目を挙げて、「それらの『安全』を守るのが『総体的国家安全観』の要」と説明した。
一般的に「国家安全」というと、外部からの軍事的脅威を連想するが、13項目のうち安全保障に当てはまるのは「軍事」の1項目だけで、あとはすべて「国内の安全」に関係している。つまり、治安維持を進めろという意味だ。
中国では国内治安維持の関係予算は2010年から2013年まで4年連続で国防予算を上回ってきた。今年の国家予算分は前年比6.1%増の2050億6500万元(約3兆4100億円)に達したが、中央政府分より多い地方政府分の予算は非公開にされている。このところ、治安維持費が国防予算より多いことが海外メディアで強調され、「国内の暴動多発」の傍証とされてきたことから、今年は治安維持関連予算の全容を非公開にしたとみられる。
治安維持予算の大盤振る舞いは、国内治安維持を担当する武装警察の装備予算からも分かる。香港の親中国系紙「文匯報」によると、武警隊員は欧米製の最新式兵器を支給されており、自動小銃や拳銃のほか、催涙弾、特殊ナイフ、伸縮自在の警棒、防弾チョッキなど計10種類、重量が15㎏にも及び、1人当たりの装備費は30万元(約500万円)に達している。武警隊員は約150万人と伝えられ、隊員の装備予算だけで7兆5000億円、国家予算分の2倍をはるかに上回っている。ここからも、地方政府予算もまた膨大であると予測できる。
習近平は党・政府幹部や職員に対して「ぜいたく禁止令」を出しておきながら治安維持には予算を惜しまず、その矛盾が苦しい現状を物語っていると言えそうだ。
中国はいま民衆の強大な圧力にさらされており、いつ、どこで第2、第3の天安門事件が起きても不思議ではない危急存亡の危機を迎えている。
※SAPIO2014年7月号