映画『テルマエ・ロマエ』のようなコメディから、ドラマ『坂の上の雲』(NHK)といった硬派な作品まで、幅広いジャンルで主演を任される阿部寛(50)にも、俳優として苦労した時期があった。モデルから俳優に転身したものの、脇役には回しがたい端正な顔立ちが災いして仕事が減少。一時はパチンコで生計を立てていたという。
そんな時代を脱するきっかけとなったのが、東映ヤングVシネマ第1弾『2人のマジカル・ナイト』(1991年)への出演だった。以降、『悪党図鑑』(1994年)でハード・バイオレンス作品に挑み、『拳鬼』(1995年)で格闘アクションを経験するなど、Vシネで役者としての幅を広げた。
高校中退後、18歳で役者の道に入った遠藤憲一(53)もまた、四畳半風呂なしアパート暮らしの下積み時代、Vシネ出演で糊口を凌いだ。
眼力が強く強面の風貌から悪役が多く、“ミスター・Vシネ悪役”と呼ばれる。ブレイク後も、「演技の基礎体力を鍛えてくれる場所。出演するたびに何かが磨かれる」とVシネをこよなく愛し、『実録 広島やくざ戦争外伝 義兄弟山口英弘の半生』シリーズ(2008年)『BLACK MAFIA絆』(2008年)などに出演している。
香川照之(48)は、『静かなるドン』シリーズ(1991~2001年)で、夜はヤクザの2代目、昼は下着メーカー社員という主人公を演じた。
俳優デビューからわずか数年での大抜擢だったが、撮影時に鹿島勤監督から「最低30回、多い時で70回、最高で108テイク」のやり直しを命じられ、演技に開眼した。『半沢直樹』での大和田常務の怪演は若き日のVシネ経験のおかげか。
1985年に映画『ビー・バップ・ハイスクール』の中間徹役で鮮烈にデビューした仲村トオル(48)は、人気テレビドラマ『あぶない刑事』シリーズ(1986~1989年)に出演するなどスター街道を歩む一方、“メジャーオンリー”ではなく、Vシネにも登場。アクションシーンの多い『狙撃THE SHOOTIST』シリーズ全4作(1989~1994年)で孤高の殺し屋役を演じた。
高い演技力から“300の顔を持つ男”と呼ばれる大杉漣(62)もVシネマで演技力を磨いた。22歳で舞台デビュー後、下積み時代に日活ロマンポルノや新東宝のピンク映画で演技を磨き、『ネオチンピラ鉄砲玉ぴゅ~』(1990年)、『事件屋稼業』(1992年)などVシネに多数出演した。1993年公開の北野武監督の映画『ソナチネ』で注目され一気にブレイクし、テレビや映画の常連に。Vシネから誕生したスターとなった。
Vシネから生まれたスターたちが、今の日本の映画界を支えている。
※週刊ポスト2014年7月11日号