新型出生前診断が昨年4月に始まって1年あまり。20万円あまりという高額ながら、1年間に検査を受けた人はおよそ8000人。先月、確定診断を受けないまま人工妊娠中絶をしていた妊婦が2人いたと報じられた。
そうした胎児を理由とした中絶の是非が争点となった裁判の判決が、やはり6月に出た。裁判官は判決理由をこう述べた。
「結果を正確に告知していれば、中絶を選択するか、中絶しないことを選択した場合には、心の準備や養育環境の準備もできたはず。誤告知により機会を奪われた」
訴えたのは、北海道函館市にある産婦人科医院で羊水検査による出生前診断を受けた女性だ。医師から「異常はない」と診断結果を伝えられたにもかかわらず、実際に生まれた子がダウン症だったとして、自分たちと、その後3か月で亡くなった男児への慰謝料として、損害賠償を求めた。
これに対して医師側は、そうした原告女性の主張を「ダウン症児の命の選別を当然のこととしている」などと反論したが、前述のような理由から医院側に1000万円の賠償命令が下された。
日本産科婦人科学会の前理事長で、慶応大学名誉教授の吉村泰典さんは、判決に大きな衝撃を受けたという。
「これまで、いわばタブーとなっていた胎児を理由にした中絶について、裁判所が、そうした選択肢もありうると判断を下したということ。これはものすごい大きな判断ですし、問題提起だと思います」
それだけに夫婦には批判の声もあった。ダウン症を持つ子供は中絶したほうがいいという風潮を作るのではないか、といったものだ。
それに対して、原告女性や裁判を取材しているノンフィクションライターの河合香織さんはこう話す。
「今回の訴訟はそもそも、ご両親が、お金を払って受けた検査の結果を間違って伝えられたことに対して、自分たちにも亡くなった子供にも謝ってほしいと思ったから起こしたものです。
しかも判断の難しい病気でもなんでもなく、染色体の数というあまりに基本的な事柄。もしも出産にかかわらない病気の告知ミスの問題なら、誰もがご両親の気持ちをスッと納得できるはずです。なので、この判決に違和感があるとしたら、それは、中絶に関して社会に矛盾があるからです。当事者にだけ押しつけられるような問題ではありません」
病院側に取材したところ、
「うちは最初から、検査を見誤ったことは申し訳ないと思って認めていますし、裁判では公正な判断をしてもらいたいと望んでいましたので、今回の判決にはそのまま従います。命の選別ではないかといったことについては、コメントする立場にありませんので、お答えできません」(事務長)
とのことだった。
※女性セブン2014年7月17日号