中国・北京の北朝鮮大使館大ホール。7月1日、金日成、金正日の肖像画に見下ろされながら行なわれた日朝協議を、安倍晋三首相はこう高く評価してみせた。
「拉致問題を含めたすべての日本人に対する調査が、国防委員会、国家安全保衛部という国家的な意思決定のできる組織が前面に出て進められる、かつてない体制ができた」
拉致被害者など日本人行方不明者を調べる「特別調査委員会」の構成や権限について北朝鮮側から「誠意」ある説明を受けたとして、北朝鮮に対する日本独自の制裁措置の一部を解除する方針を発表した。
「拉致」という重大な国家犯罪の調査である。本来、北朝鮮側が日本側に出向いて平身低頭、説明するのが筋だ。なぜ日本側が北朝鮮大使館まで呼びつけられなければならなかったのか。
「北京の大使館での開催を要求したのは北朝鮮。その裏には、最近関係が冷え込んでいる中国を揺さぶりたい北朝鮮の意図がある」
そう語るのはコリア・レポート編集長の辺真一氏だ。中国の習近平主席は7月3日から首脳会談のため韓国・ソウルを訪問した。中国の首脳が就任後、北朝鮮より先に韓国を訪問するのは初めてのこと。これで金正恩・第一書記の面目は丸潰れになった。
「中韓共同声明は両国の緊密ぶりをアピールする絶好の機会。北朝鮮の狙いはそれを潰すことだった。つまり、わざわざ北京で日朝協議を行ない、共同声明と同日に安倍首相が制裁解除方針を表明する日程を組んだ。そうすれば近隣諸国の関心は日朝協議に集中する。中国にとっては自国で開かれた日朝協議に話題をさらわれたのだから面白くない。北朝鮮の中国に対する意趣返しに日本が手を貸した格好になった」(同前)
※週刊ポスト2014年7月18日号