安倍晋三首相の経済政策「アベノミクス」は、日本経済にどんな影響が及ぼしたのか。かつて米証券会社ソロモン・ブラザーズの高収益部門の一員として活躍し、巨額の報酬を得た後に退社した赤城盾氏が解説する。
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2012年11月14日、当時の野田佳彦首相が衆議院の解散を表明した瞬間から、総選挙で自民党が大勝して安倍晋三政権が成立することを見越した凄まじい円安と株高が始まり、日本経済の風景は瞬く間に一変した。ほぼ20年間下がり続けた日本の物価が底を打つ気配を見せ始めたのである。
安倍首相はこのデフレ脱却をアベノミクスの成果と自画自賛する。しかし、いうところの「三本の矢」のうち、成長戦略に関しては、まったく見るべきものに乏しい。ここまで多少なりとも株式市場に貢献した彼の事績として思い当たるのは、法人減税の検討を指示したことくらいであろうか。
国土強靱化政策なる公共事業の大盤振る舞いに関していえば、バラマキとの批判を浴びながら歴代の自民党政権がみな熱心にやってきたことであって、これまた目新しいところは特にない。
結局、アベノミクスだ、三本の矢だ、ともったいをつけてはいるものの、今のところの安倍首相の顕かな功績は、浜田宏一・イェール大学名誉教授らの意見を容れて、日本銀行の金融政策を変えさせたことの一点に尽きるのである。
では、具体的に日銀の政策の何が変わったのか?
安倍政権が任命した黒田東彦日銀総裁も、異次元緩和、量的質的緩和と大げさな造語を連発して大いに受けて、ご満悦のようである。しかし、その金融政策の骨子たるインフレターゲットは、日本がデフレに陥って間もないころから、アメリカの著名な経済学者、ポール・クルーグマンらが明瞭に推奨してきたものに過ぎない。
日銀総裁が、年率2%の物価上昇を達成すべき使命として自らに課した。それがアベノミクスのすべてなのである。金融政策の国民経済に与える影響の大きさに改めて驚かされる。
そう考えると、その全権を一手に握り、ほぼ20年の長きにわたって、内外の一流の経済学者の提言を頑なに拒んでデフレを放置してきた歴代の日銀総裁の罪は、まことに重いと言わざるを得まい。
※マネーポスト2014年夏号