やはり、受動喫煙防止条例ははじめから「たばこ=悪」と決めつけ、喫煙者そのものを締め出す“禁煙条例”にほかならなかった。
2010年の神奈川県に続き、昨年4月に公共施設の建物内禁煙または敷地内禁煙を義務づける受動喫煙防止条例を施行した兵庫県。その条例に基づき、庁舎外にプレハブの喫煙所を設置した県内8か所の税務署が槍玉に挙げられた。
「喫煙所の設置に計850万円もかける必要があったのか」
「庁舎とつながっている外階段下を喫煙所にしたのは条例違反だ」
との批判が嫌煙派の論客や医師らから噴出しているという。だが、兵庫県受動喫煙対策室の担当者が、<庁舎の外に喫煙専用の簡易な構造物を設けることについては禁止していない>とコメントしたように、罰則付きの条例化は早くも規制の枠を通り越して、「全面禁煙」への流れを加速させている。
「喫煙は個人の嗜好の領域に属するもので、そこに公権力が介入することは個人の尊重や自由を害することになる」
かねてより行き過ぎた受動喫煙問題に、こう警鐘を鳴らしてきたのは「関西たばこ問題を考える会」会長の島谷喜代孝氏だ。
「喫煙者と非喫煙者が共存できる分煙社会を構築するためには、一方的に喫煙者を排除するのではなく、適切に喫煙場所を確保することが重要です。たばこを吸える場所がなくなれば、本来吸ってはいけない場所で吸う人が増えるなど、かえって喫煙マナーの向上にはつながりません」(島谷氏)
そもそも国が推進する「健康増進法」(2003年施行)の中にある受動喫煙防止対策には「全面禁煙」の文言はなく、民間事業者の自主的な「分煙対策」を後押しする内容となっている。
事実、神奈川のようにホテルや飲食店などでの全面禁煙まで押し付けようとした兵庫県の条例も、「厳しすぎる」といった飲食・ホテル業界などの反発に遭い、軟化させた経緯がある。
行政主導の一方的な喫煙ルールの厳格化は、民業を圧迫するばかりで実行性に欠けるもの――という認識が全国の自治体に広がっているのだ。
兵庫と同じ関西圏では、すでに京都府と大阪府が分煙ステッカーの配布や分煙設備導入の推奨など、官民一体で受動喫煙防止に取り組む姿勢をみせている。また、山形県でも条例化の動きに多くの反対意見が寄せられ、待ったがかかっている。
「はじめは公共施設での全面禁煙を柱とした条例化を目指した大阪も、議会側からの反発が相次いだため、強制力のないガイドラインを策定するに至りました。エリアや時間帯に応じた分煙を周知させる6種類のステッカーを配布するなど、民間事業者の自主的な取り組みもあり、府側に分煙対策を容認させた功績は大きいと思います」(前出・島谷氏)
しかし、せっかく各自治体が民間との議論を重ねて築き上げた「分煙モデル」に水を差す動きもある。
元神奈川県知事で国政に転身した参議院議員の松沢成文氏(みんなの党)が、秋の臨時国会に向けて超党派の議員連盟を立ち上げ、2020年の東京五輪に向けた禁煙運動を本格化させる見通しだという。
受動喫煙対策を取材するジャーナリストの入江一氏が指摘する。
「神奈川で全国初となる受動喫煙防止条例を制定させた松沢氏は、再びたばこ問題をライフワークにして国政でも名を馳せようとしています。ただ、大阪や京都といった一大都市で条例化を見送る動きも高まる中、果たして国を挙げて“受動喫煙防止法”をつくることがどこまで効果的か分かりません。
なによりも安倍政権内では『たばこ問題は最優先課題ではない』(官邸関係者)との声もあるため、実現の見込みは低いのではないでしょうか」
前出の島谷氏もこう疑問を呈する。
「オリンピックに向けたクリーン作戦を印象づけるために、たばこはもってこいの材料だと思っているのでしょう。でも、喫煙者のマナーはかなり向上していますし、オリンピックには世界中からたばこを吸う人も吸わない人も東京に集まってきます。
愛煙家には『ここで吸ってください』ときちんとした喫煙場所を設けるのが常識の範囲だろうと思うのですが……」
たとえ少数派だろうと国民のコンセンサスを得ない過度な規制は、たばこ問題に限らず許すべきではないだろう。