「改憲ありきだ!」「政府は立憲主義にのっとって」「政権の至上命題は」など、政治家や大手メディアが使う言葉には間違いが実に多い。ベストセラー『頭の悪い日本語』(新潮新書)の著者、小谷野敦氏が“半可通”インテリの変な日本語を指摘する。
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「今後のスケジュールについてでありますが、期限ありきではありません」──5月15日、記者会見で集団的自衛権行使に関する与党協議の日程の見通しについて質問された安倍晋三総理はそう答えた。
「期限ありき」は誤用だ。最近は「改憲ありき」などと使われるのをよく目にするが、それらは「まず期限ありき」とか「はじめに改憲ありき」と言わなければおかしい。ありきの「き」は過去を表わす助動詞なので「期限ありき」「改憲ありき」と使うと、「期限があった」「改憲があった」というただの過去形になってしまう。
「~ありき」は時事的な誤用と言えるもので、2013年夏の参院選前に憲法96条の改正が論議された時、江川紹子が「マスコミも改憲ありきの雰囲気になっているし」などと書いたあたりから続々と出はじめた。
気持ちの悪い日本語はほかにもある。冒頭の会見中、別の記者からの質問に安倍は「立憲主義にのっとって政治を行なっていく、当然のことであります」と答えた。
「立憲主義」も最近よく聞く言葉だが、意味不明だ。「立憲主義」とはもちろん、憲法を作って政治を行なうことで、反対語は「独裁」だ。しかし(満州国のような例外はあるが不文憲法を含め)憲法のない国はまずない。憲法を作って政治を行なうのは当然のことなのに、「立憲主義」と何度も言うことで「憲法を重んじていますよ」とアピールしたいのだろう。
しかし、重んじているからと言って憲法を変えてはいけないわけではない。「立憲主義」は解釈改憲をする言い訳として使っているように見える。安倍は「本当は憲法改正すべきだ」と言えばいい。(文中敬称略・談)
※SAPIO2014年8月号