中国の温家宝・前首相が7月8日、北京訪問中のメルケル・ドイツ首相と朝食をともにしながら、非公式に会談したことが分かった。メルケル氏が同日、清華大学での講演で明らかにした。
しかし、中国では引退した幹部は、現役時代にいかに親しく付き合っていたとはいえ、外国人の貴賓と会うことは原則的にタブー視されている。
それにもかかわらず、温氏がメルケル氏の面会の求めに応じたのは、妻や息子などの親族による不正蓄財問題で、「腐敗追及の手から逃れるため、存在感をアピールする必要があった」との多数の書き込みがネット上でみられている。
米国に拠点を置く中国情報専門の華字ニュースサイト「多維新聞網」によると、メルケル氏が温氏との朝食会に触れたのは、講演後の質疑応答の時間で、翌9日のサッカー・ワールドカップの準決勝で、ドイツがブラジルと対戦することについての質問に対する答えのなかでだった。
温氏との会食中にワールドカップが話題になり、温氏が「中国にはサッカーファンが多数おり、そのなかでもドイツチームをひいきにしているファンが多い。中国人のほとんどはドイツチームを応援するのは間違いない」とドイツチームにエールを送った。
これに対して、メルケル氏は「中国のサッカーファンは1億人以上いるでしょう。ドイツでは全国民が応援しても、それほど多くの人口はいないので、中国の応援は心強い」などと応じたという。このエピソードが披露されると、会場はドッと笑いに包まれた。
しかし、メルケル氏は温氏とサッカー以外には、どのような話をしたのかは明らかにしなかったが、最近の中国の政治、経済情勢について、話し合ったとみられる。メルケル首相は2005年11月にドイツ首相に就任して以来、温氏とは7年以上もカウンターパートとして、10回以上も会談を重ねており、親しい間柄を築いていた。現首相の李克強氏は就任2年目ということもあり、メルケル氏は温氏とも会談することを望んだようだ。
中国では、引退幹部が非公式とはいえ海外の高官と会談することは、現役幹部への配慮もあって、タブー視されている。これは温氏も十分承知しているとみられるなかで、なぜ温氏が敢えてメルケル氏と会談したのか。
これについて、ネット上の書き込みでは「徐才厚・元軍事委副主席や周永康・元政治局常務委員の腐敗摘発がもうすぐ落着すれば、温氏は次の腐敗取り締まり捜査のターゲットになることが予想される。そのことが心配で、気が気でなくなり、自分の存在をアピールしたかったのではないか」との観測も出ている。
米紙ニューヨーク・タイムズは温ファミリーが株式などで27億ドル(約2700億円)もの巨額な蓄財を形成していたと報じており、習近平指導部が極秘裏に取り調べチームを立ち上げたとも伝えられている。