市川海老蔵の人気もさることながら、片岡愛之助が『半澤直樹』でブレイクしたり、尾上松也が前田敦子との熱愛で話題になったりなど、何かと注目を浴びている今の歌舞伎界。とはいうものの、歌舞伎に興味はあるけどなんだか難しそう…と敬遠している人も多いのでは?
1964年公開の映画『月曜日のユカ』出演時の加賀まりこ(当時20才!)の表紙が話題となっている50代以上の女性をターゲットにした新雑誌『octo∞』(オクトアクティブエイジング)では、直木賞作家の松井今朝子さんが、歌舞伎の魅力や初心者向けの楽しみ方を紹介。歌舞伎の脚色、演出、評論も手がける松井さんが、歌舞伎の魅力を教えてくれます。
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歌舞伎は、基本的には“役者”で見るもの。ひいきの役者を見つけて、その人目当てでさまざまな演目を見ていくうちにハマってしまう人が多いんです。私もまさにそう! もう亡くなってしまいましたが、六代目中村歌右衛門が大好きで、大好きで。中学生のくせに、歌右衛門見たさに京都の自宅から東京の歌舞伎座まで通ってしまったほど。ついには歌舞伎の仕事にまで就いてしまいました。
今ならやっぱり、市川染五郎、市川海老蔵、市川猿之助、中村勘九郎・七之助、尾上松也ら、次世代の歌舞伎界を盛り立てていこうと、テレビや映画などでも精力的に活動している若手たちに注目です。あの人気ドラマのオネエキャラで注目を集めた片岡愛之助は、実は歌舞伎では荒々しく豪快な“荒事”も得意としているんです。そんなふうにテレビと歌舞伎でのギャップを見比べるのも楽しい点。また、愛之助をはじめ、いわゆる“家柄”と関係なく、外から歌舞伎界に入った役者たちの中にも優秀な人は多いんです。古くからの歌舞伎ファンは、とかく「先代と比べて、まだまだなっとらん!」とケチをつけたがりますが(笑い)、私はどんどん変化・成長していく若い世代ならではの、新しい歌舞伎が楽しい。だって、そんな歌舞伎を見られるのは、世代交代が進む今だからこそですから。
歌舞伎は全編じっと静かに見なくちゃいけない、というものではありません。ザワザワしたまま芝居が始まり、あるところで「待ってました!」とみんなが集中する。ネットや本でほんの少し下調べして、「この場面の踊りがきれいらしい」「この仕掛けは見逃しちゃいけない」といった見どころを押さえてから劇場に行けば、歌舞伎の約束ごとを知らなくても十分に楽しめるんです。
定番中の定番『白浪五人男』の弁天小僧は女装の詐欺師。素性が割れると肌脱ぎになって桜の入れ墨を見せ、「知らざあ言って聞かせやしょう」と語るんですが、七五調のリズミカルなセリフ回しが歌舞伎らしくて華やか! この場面さえ見ておけば歌舞伎を見た満足感が得られます(笑い)。『夏祭波花鑑』は、今でいうヤンキーが舅を殺してしまう話。亡くなった中村勘三郎の当たり役で、今は息子の勘九郎が継いでいますが、前身の彫り物を見せながらスローモーションのように舅を斬るシーンがなんとも美しいのでお見逃しなく。
【プロフィール】
松井今朝子(まついけさこ):1953年京都生まれ。松竹で歌舞伎の企画・制作に携わった後、フリーとして歌舞伎の脚色、演出、評論を手がける。1997年に『東洲しゃらくさし』(PHP研究所)で小説デビュー。2007年『吉原手引草』(幻冬舎)で直木賞受賞。