芸能

直木賞作家・松井今朝子が語る「世代交代進む歌舞伎」の魅力

謎の美女が表紙を飾る『octo∞』

 市川海老蔵の人気もさることながら、片岡愛之助が『半澤直樹』でブレイクしたり、尾上松也が前田敦子との熱愛で話題になったりなど、何かと注目を浴びている今の歌舞伎界。とはいうものの、歌舞伎に興味はあるけどなんだか難しそう…と敬遠している人も多いのでは? 

 1964年公開の映画『月曜日のユカ』出演時の加賀まりこ(当時20才!)の表紙が話題となっている50代以上の女性をターゲットにした新雑誌『octo∞』(オクトアクティブエイジング)では、直木賞作家の松井今朝子さんが、歌舞伎の魅力や初心者向けの楽しみ方を紹介。歌舞伎の脚色、演出、評論も手がける松井さんが、歌舞伎の魅力を教えてくれます。

 * * *
 歌舞伎は、基本的には“役者”で見るもの。ひいきの役者を見つけて、その人目当てでさまざまな演目を見ていくうちにハマってしまう人が多いんです。私もまさにそう! もう亡くなってしまいましたが、六代目中村歌右衛門が大好きで、大好きで。中学生のくせに、歌右衛門見たさに京都の自宅から東京の歌舞伎座まで通ってしまったほど。ついには歌舞伎の仕事にまで就いてしまいました。

 今ならやっぱり、市川染五郎、市川海老蔵、市川猿之助、中村勘九郎・七之助、尾上松也ら、次世代の歌舞伎界を盛り立てていこうと、テレビや映画などでも精力的に活動している若手たちに注目です。あの人気ドラマのオネエキャラで注目を集めた片岡愛之助は、実は歌舞伎では荒々しく豪快な“荒事”も得意としているんです。そんなふうにテレビと歌舞伎でのギャップを見比べるのも楽しい点。また、愛之助をはじめ、いわゆる“家柄”と関係なく、外から歌舞伎界に入った役者たちの中にも優秀な人は多いんです。古くからの歌舞伎ファンは、とかく「先代と比べて、まだまだなっとらん!」とケチをつけたがりますが(笑い)、私はどんどん変化・成長していく若い世代ならではの、新しい歌舞伎が楽しい。だって、そんな歌舞伎を見られるのは、世代交代が進む今だからこそですから。

 歌舞伎は全編じっと静かに見なくちゃいけない、というものではありません。ザワザワしたまま芝居が始まり、あるところで「待ってました!」とみんなが集中する。ネットや本でほんの少し下調べして、「この場面の踊りがきれいらしい」「この仕掛けは見逃しちゃいけない」といった見どころを押さえてから劇場に行けば、歌舞伎の約束ごとを知らなくても十分に楽しめるんです。

 定番中の定番『白浪五人男』の弁天小僧は女装の詐欺師。素性が割れると肌脱ぎになって桜の入れ墨を見せ、「知らざあ言って聞かせやしょう」と語るんですが、七五調のリズミカルなセリフ回しが歌舞伎らしくて華やか! この場面さえ見ておけば歌舞伎を見た満足感が得られます(笑い)。『夏祭波花鑑』は、今でいうヤンキーが舅を殺してしまう話。亡くなった中村勘三郎の当たり役で、今は息子の勘九郎が継いでいますが、前身の彫り物を見せながらスローモーションのように舅を斬るシーンがなんとも美しいのでお見逃しなく。

【プロフィール】
松井今朝子(まついけさこ):1953年京都生まれ。松竹で歌舞伎の企画・制作に携わった後、フリーとして歌舞伎の脚色、演出、評論を手がける。1997年に『東洲しゃらくさし』(PHP研究所)で小説デビュー。2007年『吉原手引草』(幻冬舎)で直木賞受賞。

関連記事

トピックス

田村瑠奈被告(右)と父の修被告
「ハイターで指紋は消せる?」田村瑠奈被告(30)の父が公判で語った「漂白剤の使い道」【ススキノ首切断事件裁判】
週刊ポスト
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
暴力団幹部たちが熱心に取り組む若見えの工夫 ネイルサロンに通い、にんにく注射も 「プラセンタ注射はみんな打ってる」
NEWSポストセブン
10月には10年ぶりとなるオリジナルアルバム『Precious Days』をリリースした竹内まりや
《結婚42周年》竹内まりや、夫・山下達郎とのあまりにも深い絆 「結婚は今世で12回目」夫婦の結びつきは“魂レベル”
女性セブン
騒動の発端となっているイギリス人女性(SNSより)
「父親と息子の両方と…」「タダで行為できます」で世界を騒がすイギリス人女性(25)の生い立ち 過激配信をサポートする元夫の存在
NEWSポストセブン
宇宙飛行士で京都大学大学院総合生存学館(思修館)特定教授の土井隆雄氏
《アポロ11号月面着陸から55年》宇宙飛行士・土井隆雄さんが語る、人類が再び月を目指す意義 「地球の外に活動領域を広げていくことは、人類の進歩にとって必然」
週刊ポスト
九州場所
九州場所「溜席の着物美人」の次は「浴衣地ワンピース女性」が続々 「四股名の入った服は応援タオル代わりになる」と桟敷で他にも2人が着用していた
NEWSポストセブン
初のフレンチコースの販売を開始した「ガスト」
《ガスト初のフレンチコースを販売》匿名の現役スタッフが明かした現場の混乱「やることは増えたが、時給は変わらず…」「土日の混雑が心配」
NEWSポストセブン
希代の名優として親しまれた西田敏行さん
《故郷・福島に埋葬してほしい》西田敏行さん、体に埋め込んでいた金属だらけだった遺骨 満身創痍でも堅忍して追求し続けた俳優業
女性セブン
佐々木朗希のメジャーでの活躍は待ち遠しいが……(時事通信フォト)
【ロッテファンの怒りに球団が回答】佐々木朗希のポスティング発表翌日の“自動課金”物議を醸す「ファンクラブ継続更新締め切り」騒動にどう答えるか
NEWSポストセブン
越前谷真将(まさよし)容疑者(49)
《“顔面ヘビタトゥー男”がコンビニ強盗》「割と優しい」「穏やかな人」近隣住民が明かした容疑者の素顔、朝の挨拶は「おあようございあす」
NEWSポストセブン
歌舞伎俳優の中村芝翫と嫁の三田寛子(右写真/産経新聞社)
《中村芝翫が約900日ぶりに自宅に戻る》三田寛子、“夫の愛人”とのバトルに勝利 芝翫は“未練たらたら”でも松竹の激怒が決定打に
女性セブン
天皇陛下にとって百合子さまは大叔母にあたる(2024年11月、東京・港区。撮影/JMPA)
三笠宮妃百合子さまのご逝去に心を痛められ…天皇皇后両陛下と愛子さまが三笠宮邸を弔問
女性セブン