「末代の恥。腹を切りたい」──2010年のセンバツで21世紀枠の向陽(和歌山)に負けた際の発言が物議を醸した開星(島根)の野々村直通監督。「やくざ監督」と呼ばれる風貌や言動も相まって“舌禍事件”は話題となった。2012年に定年退職し、現在は教育評論家として活動する野々村氏が、「甲子園常連校」の重圧を語る。
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周囲から「絶対に勝つ」と言われる中で勝ち続けなければならないプレッシャーは、強豪校の監督をした者でなければわからないでしょう。今だから話せますが、「負けたらどうしよう」という不安から、試合当日の朝は毎朝、嘔吐していましたし、夏の大会が終わるまでに体重は10キロ落ちました。
甲子園より地方大会のほうが、はるかに重圧は強い。甲子園は全国の強豪が相手ですから負けても批判されないが、県大会では取りこぼしが許されませんから。
子供たちも重圧を感じていたでしょうね。甲子園では雰囲気に呑まれて力を出し切れないことはあるが、地方大会では「負けられない」というプレッシャーがかかる。猛練習を積んだ野球エリートとはいえ、彼らはまだ高校生。浮き足立つと、完全に別人になってしまうこともある。それを元に戻すのはとても難しい。
私の強面の格好や強気発言は、選手たちに安心感を抱かせるためのパフォーマンスでした。本当は私が一番ガラスの心臓なんだけど、子供たちにはいつも「大丈夫だよ」と言い続けていました。自分にも言い聞かせていたのでしょうね(笑い)。
多くのご批判をいただいた「末代までの恥」も、そうした重圧に勝てなかった自分への情けなさのあまりに出た言葉でした。決して向陽さんを侮辱する気持ちではありません。
あの時は中国大会で広陵(広島)や関西(岡山)といった強豪を破り、優勝も狙えるチームでした。21世紀枠に負けるわけにはいかないという重圧を、自分や子供たちにかけすぎたのかもしれません。甲子園常連といわれるチームの宿命とはいえ、時としてそれが「番狂わせ」を招く原因にもなるのです。
※週刊ポスト2014年7月25日・8月1日号