2009年より10円刻みの飽くなき“値下げ戦争”を繰り広げてきた牛丼チェーン。
さすがに今年4月の消費税増税後は「吉野家」と「松屋」が値上げし、牛丼並盛りをそれぞれ300円、290円の価格設定にしていたが、最大手の「すき家」がまさかの10円値下げで創業以来最安値の270円とする“奇策”に出たために、価格競争の行方は依然、予断を許さない状況と見られていた。
しかし、ついに低価格路線に終止符が打たれる――。
松屋が7月22日より発売する「プレミアム牛めし」は380円と90円値上げしたうえに、導入店舗では従来の安い牛丼を販売終了させると発表したからだ。
<単純な値上げではなく、別次元のうまさで社運をかける>と意気込む松屋フーズの緑川源治社長。同社が高価格戦略に舵を切ろうとしているのはなぜなのか。
外食ジャーナリストの中村芳平氏が話す。
「折からの円安基調で輸入牛肉など原材料のコストが高騰しているのに加え、家賃や光熱費も上がる傾向にあります。さらに、すき家を襲った人手不足に端を発して各社とも人件費の上昇圧力に悲鳴を上げています。
幸い、昨年から吉野家が火をつけて他社も追随した単価の高い牛鍋商品や、キムチやサラダなどサイドメニューが好調なおかげで上位3社の客単価は目立って落ちていませんが、その勢いもいつまで続くか分からない。
そこで、万年3位の松屋は看板メニューである牛丼のクオリティーを高めながら、利益の出る“適正価格”に戻し、新しい攻めのブランドとして売り出す決断をしたのでしょう」
確かに緑川社長は昨年、新聞社のインタビューで牛丼の適正価格について問われ、こう答えていた。
<原価が高すぎるのではなく、売価が安すぎる。主力商品の牛めし並盛りは280円だと原価率は約40%。外食企業の原価率は30%台前半が一般的といわれており、こんな高コストの商品はあり得ない。仮に350円にすれば、原価率は30%台前半に下がり、適正水準になると考える>(日本経済新聞・2014年2月4日)
このときは、価格を<上げる勇気はない>と語っていたが、水面下では着々と反転攻勢に向けて準備を進めていたのだろう。