「入試で最も使われる新聞」と自画自賛する日本の高級紙・朝日新聞でも、紙面をじっくり検証してみると、日本語の誤用の例が出てくる出てくる。
安倍晋三首相がイラスト入りのパネルを使いながら国民に「集団的自衛権」の必要性を訴えた5月15日の会見の後、朝日新聞は3回にわたり「首相の狙い」について特集した。その1回目(〈集団的自衛権 読み解く〉5月18日付朝刊)に、早速誤用を発見。
記事は首相の「限定容認論」に説得力がないと指摘した上で〈政府関係者は、解釈改憲ありきで走る首相の姿勢を…と危ぶむ〉と書いている。これは作家で比較文学者の小谷野敦氏が指摘するように、「~ありき」の時事的な誤用だ。本来は「まず改憲ありき」とか「はじめに改憲ありき」と言わなければおかしい。ありきの「き」は過去を表わす助動詞なので「改憲ありき」と使うと、「改憲があった」というただの過去形になってしまう。
この誤用は多く、見出しで〈原発ありき 残る不安〉と掲げたものもある(2013年7月9日付朝刊)。電力4社が出した原発の再稼働申請についてその拙速ぶりを懸念しているが、見出しの日本語を間違えてしまった。
2014年5月20日付朝刊では〈「真犯人」自作自演か〉の見出しで、PC遠隔操作事件の被告が保釈中にメールを送っていた疑いがあることを伝えた。同23日付の天声人語でも〈真犯人を装った自作自演のメール…〉と書いている。
小谷野氏は「自作自演とは自分で作った歌や芝居を自ら歌ったり演じたりすること。他人がやったように見せかけて自分でやることは、本来『狂言』という。しかし狂言ではわかりにくいから、自作自演が代用され、誤用が定着したのでは」と指摘する。
※SAPIO2014年8月号