ここ最近、年金に関するニュースが増えている。というのも、厚生労働省が6月、5年に1度行う公的年金の『財政検証』の最新版を発表したためだ。この『財政検証』は年金の“健康診断”ともいわれ、将来もらえる年金額が世代別に詳しく記されている。ただ、その複雑さゆえに誤解も多く、正しい知識を知らずにいると、損をしてしまうことも。
ではすでに年金を受けとっている60代以降の年金は、いつから、いくら減るのか。
「年金を一律で減額調整する『マクロ経済スライド』は来年4月から毎年1回行われます。経済状況に左右されますが、だいたい毎年1%ずつ減ると思っていいでしょう」
と話すのはニッセイ基礎研究所年金総合リサーチセンター・中嶋邦夫主任研究員。つまり、単純計算すると月額20万円の年金を受け取っている人は月2000円、年間では2万円強が減る計算に。
「減額調整は、おそらく28年後の2043年まで続く見通し。この間、ずっと1%程度ずつ減るわけです。10年後には年間20万円程度の目減りが待っています」(中嶋さん)
現在65才の夫婦が受け取っている月22万円の年金は、75才になるころには月20万円になる試算。今ギリギリの生活をしている家庭の場合は、完全に赤字に転落してしまう。
そして、『マクロ経済スライド』には、もうひとつややこしい点がある。年金額は毎年1%程度ずつ減っていくのだが、見た目の金額は変わらない、むしろわずかながら上がることもあるというのだ。これはいったいどういうことか。
「これまでの年金は、たとえば、物価が2%上がると、受給額も2%増える形で調整されてきました。しかし、来年4月からは、1%の減額調整が行われます。つまり、物価が2%上がるとき、年金額は物価に対して約1%減るので、言い換えれば見た目の金額は約1%上がるのです」(中嶋さん)
国の社会保障審議会委員で年金問題に詳しいファイナンシャルプランナーの井戸美枝さんは、まさにここが落とし穴だと言う。
年金は、保険料を払った期間が長いほど、もらえる年金額が高くなる。通常、年金は20才から60才までの40年間保険料を納めるが、40年間に達していない場合は、60才以降も5年間だけ追加で納めることができるのだ。
「たとえば、国民年金に5年間任意加入した場合、保険料の総額はおよそ91万5000円。これに対して、年金は月額8050円増やすことができます。年間では9万6600円の年金アップ。75才まで10年間年金を受け取れば、約96万円の増額になる計算で、支払った保険料よりもお得になるのです」(井戸さん)
井戸さんがすすめるのが、年金の『繰り下げ受給』だ。年金は、受給開始を65才から66才に1年遅らせる(=繰り下げる)と、受給額を8.4%増やすことができる。最大で70才まで受給開始を遅らせることができ、受け取る年金額は43%もアップする。
「女性は、男性より平均寿命が長い。夫が先立った後を考え、妻の年金を繰り下げで増額しておくのがおすすめ」(井戸さん)
ちなみに、受給開始を早める『繰り上げ受給』は損になることが多い。60才から受給すると、65才から受け取る場合と比べて年金額が30%も減ってしまうのだ。
※女性セブン2014年7月31日・8月7日号