ニューヨーク・ヤンキースの田中将大が故障者リスト入りした。そんな状況下、田中の故障を考える上で、ある指標が注目されている。PAP(pitcher abuse point)という米国の野球専門のシンクタンク「Baseball Prospectus」が考案した指標で、いわば「投手酷使指数」である。
先発投手が1試合で投げた球数から100を引き、その数を3乗した数を算出(例えば110球なら、10の3乗で1000ポイント、140球なら40の3乗で6万4000ポイント)。これを毎試合累計して、シーズン通算で10万ポイントを超えると故障の可能性が高まり、20万以上で「いつ故障してもおかしくない水準」と見なされる。
『プロ野球なんでもランキング』(イースト・プレス刊)の著者で、プロ野球データに詳しいライターの広尾晃氏の協力により、日米の主な投手の2013年シーズンのPAPを比較してみよう。
■セ・リーグ
メッセンジャー(神):先発30 球数3265 PAP62万6528
三嶋一輝(De):先発34 球数2691 PAP35万3314
三浦大輔(De):先発27 球数2845 PAP30万4761
■パ・リーグ
金子千尋(オ):先発29 球数3284 PAP47万666
田中将大(楽):先発27 球数2981 PAP21万4666
(楽天でのポストシーズン):先発3 球数407 PAP24万3683
摂津正(ソ) 先発25 球数2698 PAP22万5207
■MLB
T.リンスカム(SF):先発32 球数3279 PAP13万2001
C.J.ウィルソン(LAA):先発33 球数3651 PAP10万8692
ダルビッシュ有(TEX):先発32 球数3451 PAP9万8298
MLBに比べてNPBの選手がいかにポイントが高いかがわかる。
「これは中4日で投げるために球数を少なく抑えるアメリカと、中6日空けるからその分完投を目指す日本の考え方の違いが根底にあります。アメリカの“肩や肘は消耗品”という考え方は、登板間隔よりも、球数を重要視しているのです」(広尾氏)
今季、DL入りするまでの田中は通算1万9883、平均1105。MLBでは特に問題なしとされる数値だ。そのため、故障の原因を「日本での投げ過ぎ」に求める声が強いのである。
田中のヤンキース入団時、スポーツ専門誌『スポーツ・イラストレイテッド』は、移籍が決まった時点で、「この年齢でこれほど球数を投げている投手は過去35年間いない」と指摘していた。
「ヤンキースのスカウティング・レポートも“2年以内に故障する可能性がある”と但し書きをつけていたといわれています。キャッシュマンGMが、故障のリスクを覚悟で獲得したと明言していたのはそのためです」(メジャー担当記者)
※週刊ポスト2014年8月8日号