直木賞作家の藤田宜永さん(64才)が新刊『女系の総督』(講談社・1890円)を上梓した。
「ライブ感覚で、といったらいいですかね、ジャズでいえば即興で演奏するような感じでこの作品を書いたんです」(藤田さん・以下同)
著者みずから「家庭劇」という本書。舞台は東京の下町。女ばかりの家で、大黒柱の父親が右往左往する。といって、とくに変わった事件が起こるわけでもなく、淡々と続く日常が描かれる。それだけに、家族の会話や機微に、読み手は自分のそれを重ねて、さっきまで自分の家庭で交わしていた会話のようなライブ感を感じてしまう。
作品の背景を藤田さんは語る。
「物語の最初に2匹の猫が登場しますが、メスで父親になつかないというのは、わが家の猫と同じです。うちの猫はぼくが餌もやり、トイレの始末もしてやり、ときには喜びそうなおもちゃも買ってやるのに、ぼくが近づくと逃げるんです (笑い)。これだけでスムーズに小説の世界観が決まりました」
藤田さん自身はひとりっ子で育ち、今は夫婦2人暮らし。大家族でも女系でもないけれど、
「カミさんの家が女系なんですよ。カミさんがしょっちゅう妹とけんかして、“もう二度と会わない”なんて怒って、ぼくに愚痴をこぼすんです。ところが、しばらくすると、妹が泊まりに来て、枕を並べてしゃべっている(笑い)。そういう振り幅の大きさ、女同士の密着度を、男の視点でサラサラと書きたいと思ったんです」
話題にのぼる著者の妻は、ご存じ、作家の小池真理子さん(61才)。夫婦そろって直木賞作家という、唯一無二のカップルだ。
「一家に作家が2人、大変では? とよく言われます。でも、自分のことしか考えていない2人ですから、お互いに治外法権みたいなもので、食事のとき以外はそれぞれの机に向かっています。ただ、食事を作るのはカミさんですから、それがぼくのいちばんの弱点ですね。食事の支度になると、彼女は執筆を中断して、台所に立つ。“食べられるのは誰のおかげ?”っていじめられて、ぼくはひたすら“すみません”(笑い)」
一緒にいる時は、会話が途切れることはないそうだ。
「もともとぼくは文壇一のおしゃべりで、男の中では浮いています(笑い)。だから、 “さしすせそ”タイプの女性は苦手ですね。何を聞いても話しても、“さあね”“知らない”“すてき”“せっかくだから”“そうね”しか言わない女性っているでしょう? 妻は作家だから当然ですけど、自己主張が強い。そういう女性がぼくは好きです」
【プロフィール】
藤田宜永/ふじたよしなが。1950年、福井県生まれ。早稲田大学第一文学部中退後、渡仏。エールフランスに勤務。帰国後、エッセイを書き始め、1986年『野望のラビリンス』(カドカワ・ノベルズ)で小説家デビュー。2001年『愛の領分』で直木賞受賞。近著に『探偵・竹花 潜入調査』(光文社)『銀座 千と一の物語』(文藝春秋)などがある。
※女性セブン2014年7月31日・8月7日号