田中将大の故障の原因を「日本での投げすぎ」に求める米球界の論調に対し、レンジャースのダルビッシュ有はMLB先発投手の「中4日」のローテーションが問題だと発言し、米球界で議論を呼んだ。
スポーツ医学の世界でも明確な答えは出ていないのだが、そもそもダルビッシュの発言は、MLB方式でトミー・ジョン手術を受ける投手が多すぎることを危惧したことが背景にあった。この発言、そして田中の故障は、米国球界の「中4日至上主義」に変化を生みつつある。MLBで2度の最優秀監督に輝いたエンゼルスのマイク・ソーシア監督を直撃すると、
「登板間隔の変更は、各投手の調整法も変えなくてはならないので簡単ではない。ただダルビッシュがいうように、球数だけで肘を守ることができないのは事実。個人差があるからね」
と、ダルの発言に理解を示し、球数至上主義に疑問を呈した。昨季MLBでPAP(pitcher abuse point=先発投手の球数をもとに酷使の度合いをはかる指数)が2番目に高かったエンゼルスのエース、C.J.ウィルソンはこう語る。
「俺は22歳でトミー・ジョン手術を受けた。契約金の高騰で、若い投手たちは競うようにスピードボールを投げようとする。それが今、20代の優秀な投手が手術を受けざるを得なくなっている理由だろう。未発達な体で無理をすると故障の原因になるからだ。問題はダルビッシュのいうローテーションではなく、将来有望な息子を持つ親の意識を変えることだよ」
初めて手術を受け、その名を残したトミー・ジョン氏も、「いま最も懸念するのは手術を受ける選手の若年化」と話す。この事実を米球界は重く受け止めるべき時なのかもしれない。
田中はしばらくメスを入れずに様子を見ることになりそうだが、今オフの手術の可能性も残している。日本のトミー・ジョン手術の草分けで「マサカリ投法」の村田兆治氏はこう語る。
「術後のリハビリには時間がかかるし、復帰には最低でも2年かかる。できればメスは入れない方がいい。それに田中の場合、単なる復帰ではなく、活躍できる復活が求められるのだから事態は深刻だ。だけど彼はまだ若いし、今できる最善のことをしてほしい」
※週刊ポスト2014年8月8日号