400勝投手“カネやん”こと金田正一氏(80)は、1965年に始まる巨人V9のきっかけをつくった選手だ。移籍直後に初めて参加した巨人のキャンプで、金田氏は長嶋茂雄氏の体があまりに硬くて驚かされた。専属トレーナーを雇い、ミネラルウォーターを飲むなどコンディショニングにいち早く取り組んでいた金田氏に影響され、体を作り直した長嶋氏は完全に復活した。劇的に巨人の意識を変え、V9の礎を作っていった当時の思い出を金田氏が語る。
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川上(哲治)さんはワシを招き入れることで、長嶋や王(貞治)をはじめとする選手の意識改革をしたかったんじゃないかな。とにかく、ワシのいうことには協力してくれた。
たとえば食事だ。当時は食堂でビールを飲むことも禁止だった。しかし適量の酒は食欲を増進させる。そんなものを社会人にもなって規制される必要があるかと、すぐ撤廃してもらった。
それにキャンプの宿舎の食事が酷くてな。練習から帰って夕食に出された料理を見てワシは呆れたよ。何時間も前に作った、冷めたトンカツが並んでいるんだ。中高生の部活の合宿で出るような料理だぞ。それを長嶋や王が食べている。こんな食事でプロがどうやって体を作るのかと思ったよ。だから、
「ワシは自由にさせてもらいます。ワシも商売ですから、食べるものまで規制されては力が発揮できません」
と川上さんにいうと、これも一発ОKしてくれた。内心は「この新入りが」と思っていただろうけどね。
ワシは国鉄(スワローズ)時代から自分で食料を買い付けてメシを作っていた。ミネラルウォーターをいち早く飲むなど、食事には本当に留意していたからな。これは「旅先では水に気をつけろ。腹を空かせるな」という母の教えに基づくものだ。
これを巨人でも実践した。いわゆる「金田鍋」だ。すぐに末次利光、土井正三といった選手がワシの部屋に集まってきた。もちろんONも来たよ。ワシを慕ってきた連中はみんな、成績を残して現役生活を長く過ごした連中ばかりだ。一般的な選手が払うキャンプ中の費用が1万円といわれていた時代に、ワシはいろんな経費を含めて28万円も使っていたんだからな。
それから今では当たり前になった、キャンプ中の朝の散歩を始めたのもワシだ。毎朝早起きをして、散歩の仕上げに市場で夕食の買い出しをするのを日課にしていたが、巨人の連中は王や長嶋ですら、いつまで寝ているんだと思うほど朝が遅かったからね。これも「金田について行こう」という川上さんの鶴の一声で全員がついてくるようになった。これが体を作る意識の改善に繋がり、V9に繋がったともいえるかな。
※週刊ポスト2014年8月8日号