これほど頻繁に地元に帰りたがる総理大臣は珍しい。7月18日、安倍晋三首相は番記者を引き連れ、地元・山口県下関市に入った。永田町には「総理大臣に里心がつけば政権は末期」というジンクスがあり、お国入りはせいぜい任期中に1回が相場。だが、安倍首相の場合、昨年4月と8月、今年1月に続いて4回目。ほぼ半年に1度のペースで地元入りしている。
今回のメーンイベントは幕末の志士・高杉晋作の墓参り。7月19日朝に高杉の菩提寺「東行庵」で献花して記念撮影。午後は産経新聞社運営の「長州正論懇話会」で記念講演を行なった。地元記者が語る。
「茶番ですよ。お国入りを大きく報じたのは地元紙と産経、NHKくらいで、他紙はベタ記事扱い。わざわざ高杉晋作の墓を見学したのは、来年のNHK大河ドラマ『花燃ゆ』の番組宣伝じゃないかと見られています」
『花燃ゆ』は幕末の長州の思想家、吉田松陰の妹・文がヒロインで、高杉は主要登場人物の1人だ。
NHKは墓参りをニュースで大きく報じ、「今の心境は?」という記者の質問に対して、首相が、「まさに志が定まった感じがします」──と答えるやりとりまで伝える力の入れようだった。
安倍首相もその後の正論懇話会の講演で大河ドラマを“番宣”してみせた。
「来年は長州を舞台にした大河ドラマが放送されると聞いています。松陰先生の妹さんが主人公でして、来年はまさに長州が中心的なドラマにあるということです(意味不明)。
妹の文さんが嫁いだのは弟子の一人の久坂玄瑞です。その久坂家への手紙の中で松陰先生はこう記しております。『天下公正をもって』。国の将来のために尽くすことを自らの任務として自覚しているということです。この教えは150年経った今でも心に響いてくるものがあります」
もっとも、この『花燃ゆ』は安倍政権だから決まった題材ともいわれてきた。山口県の郷土史研究家は冷ややかだ。
「安倍総理は昨年の夏休みに帰郷したときも、松陰神社の松下村塾に上がり込み、わざわざ松陰像の前で記者会見を開いた。地元のPRというより、自分を歴史上の英雄に重ねて自己陶酔しているように見えますね」
同ドラマはNHKが安倍首相に配慮して強引に舞台を山口にしたものだとされ、地元でも冷めた見方が広がっている。首相のお膝元でも庶民は消費増税や年金カットに苦しんでいる。ドラマにはしゃいでいる余裕などないのだ。
※週刊ポスト2014年8月8日