7月28日、4月30日に前立腺がんのため、この世を去った作家の渡辺淳一さん(享年80)の『お別れの会』が、都内のホテルで営まれた。
この日、渡辺さんとの最後の別れを惜しんで、文壇をはじめ映画、出版、芸能界から約850人が会場に駆けつけた。その中には、渡辺作品の映画『愛の流刑地』で主演を務めた豊川悦司(52才)や渡辺作品11本に出演した津川雅彦(74才)、『別れぬ理由』や『遠き落日』で主演した三田佳子(72才)、名取裕子(56才)、八代亜紀(63才)のほか、小池真理子さん(61才)や北方謙三さん(66才)といった大物作家の姿もあった。
「先生が亡くなってからまだ3か月しか経っていませんが、決して悲しい雰囲気の会ではありませんでした。生前の先生のお人柄もあって、みなさん笑顔で思い出を語り合っていましたね」(会の出席者)
そんな和やかなムードで行われた『お別れの会』だったが、一部はピリピリとしたムードに包まれ、出席者たちの視線を集めていた。それは、あのふたりが会場に顔を揃えていたからだった。
「『失楽園』の映画版で主演を務めた黒木(瞳・53才)さんと、ドラマ版で主演を務めた川島(なお美・53才)さんが、会場で鉢合わせしてしまわないか、内心ヒヤヒヤでした。というのも、このふたりは“共演NG”だといわれているんです」(映画関係者)
1997年5月に映画版が公開され、それを追う形で、同年夏にドラマ版が放送された『失楽園』。閑職に追いやられた編集者・久木と、書道の講師をする人妻・凜子は、お互い家庭があるにもかかわらずひかれ合い、“W不倫”の渦へとのみ込まれていく。
映画化の話が持ち上がったとき、主人公・凜子役を争ったのが、黒木と川島のふたりだったという。
宝塚歌劇団の娘役トップだった黒木は、『失楽園』に出演する11年前に、同じく渡辺さん原作の『化身』で映画デビュー、女優に転身した。
「当時、黒木さんは渡辺さんと親しい間柄にあったといわれています。渡辺さんの意向もあって『化身』の主演に抜擢され、大胆な濡れ場に挑戦したことで、一気に評価があがりました」(前出・映画関係者)
その後、ドラマ『真夜中は別の顔』(テレビ朝日系)や、映画『略奪愛』など数々の作品に出演し、『失楽園』のときはすでに名実ともに“トップ女優”というべき存在だった。
一方の川島は、1979年に歌手としてデビューした後は、『アイ・アイゲーム』(フジテレビ系)や『お笑い漫画道場』(日本テレビ系)などのバラエティー番組に出演するタレントにすぎなかった。
「当時、川島さんはタレント扱いされることに嫌気がさし、女優としての道を模索していました。そんなとき、親しい出版関係者に“渡辺作品に出演するのが、大女優への近道”と教えられたそうです。渡辺さんは、自らの作品が映像化されるときのキャスティングに、絶対的な力を持っていましたからね」(芸能関係者)
実際、黒木だけでなく、かつて『別れぬ理由』などで主演に抜擢された三田や『氷紋』(日本テレビ系)の岩下志麻(73才)などとも親しい間柄といわれていただけに、渡辺さんと懇意になることは、女優へのステップになると川島は考えたのだろう。
そんな川島が渡辺さんと知り合ったのは、1995年の年末に行われた渡辺さん主催の忘年会の席だった。出版関係者のほかに、テレビや映画関係者も参加していたというその会の場に、彼女の姿はあった。
「川島さんからの猛アタックで、ふたりは親密な仲になったと伝えられています。当初は出版関係者や芸能界だけの噂でしたが、ふたりの北海道旅行が3度にわたって報じられたことで、世間でも川島さんと渡辺さんがただならぬ間柄であると知られることとなってしまいました。でも川島さんは大々的に報じられたことをむしろ喜んでいる節さえありましたね」(前出・芸能関係者)
渡辺さんの川島への寵愛ぶりが周知の事実となったため、映画『失楽園』のヒロイン役は川島に決まりと目されていた。だが、いざふたを開けてみると、その座を射止めたのは黒木だった。
「映画の主演を任せるということは、渡辺さんが黒木さんの女優としての実力を認めていたということです。逆に、川島さんについては、親しい人に“川島が愛人なのは認めるが、彼女を女優としては認めていない”などと語っていたそうです。渡辺さん自身も、『失楽園』が自らの作家人生を代表する作品であると自覚されていましたから、女優としてすでに高い評価を集めていた黒木さんを起用したかったのでしょう」(前出・芸能関係者)
誰よりも渡辺さんから愛されていると自負していた川島にしてみれば、渡辺さんが黒木を映画『失楽園』の主役に選んだことは受け入れ難い事実だっただろう。結局、“愛”だけでは大役を掴み取ることはできなかった。
こうして禍根を残すことになった黒木と川島の映画版の主役を巡る争い。以来、ふたりは“共演NG”の関係といわれるようになる。
ただ、その後、映画版が大ヒットしたことによって、ドラマ版『失楽園』の制作話が浮上する。そこで主役に名乗りをあげたのが川島だった。「映画版では抜擢してあげられなかった負い目もあったのでしょう。渡辺さんは川島さんを主役の座に据えたんです。そして、川島さんも期待に応えるように、見事な官能シーンを演じきって、ドラマをヒットに導きました」(前出・芸能関係者)
その後も、渡辺さんの川島への寵愛は変わることはなかった。1998年にはドラマ版『くれなゐ』の主演を務めた後、1999年には渡辺作品の映画の主演の声がかかる。
「『メトレス・愛人』の映画化の話が持ち上がったとき、渡辺さんは“川島を主演にする”という条件付きでOKを出したといわれています」(前出・映画関係者)
初めは川島を女優としては、まったく認めていなかった渡辺さんだったが、このころには、少しずつだが彼女を女優として認め始めていたのかもしれない。
※女性セブン2014年8月14日号