誤用や重言、外来語など、半可通(いいかげんな知識しかないのに通ぶること、またはその人)がおかしやすい日本語の間違いの例を作家で比較文学者の小谷野敦氏が解説する。
【ルサンチマン】
単なる「怨恨」ではなく、能力もないものが嫉妬して抱く醜い怨恨のこと。一般的な「恨み」のことではない。
【パラダイム】
もともとは規範というほどの意味だが、必要もないのに「パラダイム」と使い、時には自分がパラダイム転換を行なっているのだと誇大妄想めいたことを言う人がいる。
【看護師】
私は「看護師ファシズム」と戦っている。法令で看護師に統一した途端、「看護士」や「看護婦」が差別用語か使用禁止用語になったかのようだ。新聞、テレビから果ては小説まで「看護師」になってしまった。
一番の問題は、私がそう指摘しても「看護婦がいけない理由」を言う人が誰もいないことだ。つまり議論がない。議論がないところがファシズムだ。国家が言語を決めるのだと思っている。どういうわけか、国家による言論統制に批判的な左翼知識人ほど、かつての新かなづかいや漢字制限同様、こういうくだらないファシズムを歓迎する傾向がある。(文中敬称略・談)
※SAPIO2014年8月号