近年では、故人の遺灰を山や海に撒く散骨や、友人同士で同じ墓に入る「墓友」など、新たな埋葬のスタイルが広まりつつある。しかし、「別れた妻と同じ墓に入りたい」という夫の願いは叶うものなのだろうか? 弁護士の竹下正己氏が、こうした相談に対し回答する。
【相談】
還暦を過ぎ一時の感情のもつれから妻と離婚。その妻が先日、急死。それ以来、反省の日々が続いています。私もこの先、長い人生ではありません。できれば、別れた妻と一緒の墓で眠りたいのです。しかし、妻の親族は分骨を拒否しています。どのように相手側にお願いすれば、分骨を許してもらえますか。
【回答】
分骨を希望する以上、元妻の遺骨が誰のものかが問題になります。人の遺骨が物として一般の動産同様に扱われるのであれば、普通の相続の場合と同様、法定相続人が相続したことになり、相続人が複数いれば共同相続です。しかし遺体や遺骨は、普通の財産ではなく、位牌など先祖供養をするための祭祀財産と同様の扱いをすべきであると解するのが通説です。
祭祀財産は、通常の相続の手続きの対象にはなりません。民法第897条では、祭祀財産の権利の承継者を、まず「慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者」を原則とし、被相続人が指定したものがいれば、その者が承継するとしています。
そして慣習もわからず指定もないときは、家庭裁判所が決めます。通常は、配偶者や子供などの近親者が、承継者になります。こうした慣習があるといってもよいし、候補になりえる人たちが合意して決めていると解してもよいでしょう。
これら近親者間で反目があると、家庭裁判所が決めますが、必ずしも法定相続人に限らず、被相続人との身分関係の他、生前の生活関係、承継希望者が持っている追悼の意思や能力、また承継者を指名していたとすれば誰かなど、生活上の親和関係を重視して判断します。遺骨は、こうして決まる祭祀承継者が所有することになります。
感情の行き違いが原因とはいえ、離婚した元妻の祭祀承継者にあなたがなることはあり得ません。しかし、上記のとおり、遺骨は、祭祀財産としてその承継者が所有していることになります。そこで、元妻の親族全員の承諾が困難でも、この祭祀承継者が同意してくれれば、分骨は可能です。とはいえ、周囲の親族の反対を押して、同意することも難しいでしょう。意のあるところを誠実に伝え、理解していただくしかないと思います。
【弁護士プロフィール】
◆竹下正己(たけした・まさみ):1946年、大阪生まれ。東京大学法学部卒業。1971年、弁護士登録。
※週刊ポスト2014年8月8日号