夏になると増える「朝採れ野菜」はなぜ美味いのか。味を落とさず保存する工夫は? 夏の愉しみについて食文化に詳しい編集・ライターの松浦達也氏のアドバイスを紹介する。
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夏になると、スーパーやデパート店頭で「朝採れ!」「産地直送」などのうたい文句が増える。とりわけ8月には「朝採れ野菜」の代表選手、「ゴールドラッシュ」「ピュアホワイト」など生食もできるとうもろこしが店頭をにぎわす。北海道フェアなどでは、朝採れの野菜が「16時以降限定」という形で空輸されることまである。
ここまで夏野菜の「朝採れ」が珍重されるのは、単に「新鮮」というだけの理由ではない。日がのぼる前の「朝採れ」が一番うまいからだ。植物は日中、日の当たる気温が高い時間帯には呼吸が活発になる。実をつけた状態のとうもろこしは、実に含まれる糖分をエネルギーとして使うことで、実の糖度が落ちる。つまり味わいを落としてしまう。日中には植物としての成長が優先され、日の落ちた夜になると呼吸が減る。成長のためのエネルギーが葉から実へと送られ、日がのぼる直前にエネルギーが満タンになる。つまりうまみが最高潮になる。だからこそ、朝が一番甘く──うまくなる。
では空輸までして「産直」をする理由はというと、やはり「呼吸」がポイントとなる。とうもろこしをはじめとした、「青果」は収穫されたあとも「呼吸」を続ける。そのエネルギー源は当然実の糖分。つまり収穫後に時間がたつほど、味が落ちてしまう。当然、われわれ消費者としては購入したら帰宅後即、調理したいところ。どうにも調理できないときには、皮つきのままぴったりとラップに包んで冷蔵庫へ。ただし、常温だと1日でおいしさが半減するとも言われていて、以前取材で訪れたとうもろこし農家は「もいでしまったとうもろこしは、そのまま保存するより、早めにまとめてゆでてしまったほうがおいしい」と言っていた。
以前、この項で枝豆農家に伝わる「枝豆は湯を沸かしてから収穫すべし」ということわざを紹介したことがある。枝豆もとうもろこし同様、収穫後に呼吸をする際に実に蓄えた糖をどんどん使ってしまい、鮮度が落ちるという。そして枝豆もとうもろこしも、呼吸量が多いため、おいしさがどんどん失われていってしまう。
「いただきます」が「いきものの生命をいただく」ための儀礼であることはご存じの向きも多いだろう。そして同じものをいただくなら、よりおいしく、心に残るように味わう。そのために知っておいたほうがいい、いきものの仕組みは数限りなくある。