近畿、東海、関東甲信地方が梅雨明けした7月21~27日までの1週間は、前週の2.6倍となる8580人が熱中症で救急搬送された。今年に入って統計を取り始めた5月19日以降の搬送者は2万1322人にも上る。
この数を「いくらなんでもちょっとおかしくないか」と感じている人も少なくないようだ。
ほんの30年ほど前までは、冷房なしで打ち水や簾(すだれ)で暑さをしのぎ、蚊帳を下げて団扇で扇ぎながら寝るのがこの国の当たり前の生活風景だったのだ。日本人は“暑さに弱い国民”になってしまったのではないか、という見方は実は巷に多い。
「昔と比べて気温や労働条件、人口比率などの関係により、熱中症にかかりやすい環境になっている」と分析するのは、信州大学大学院の能勢博教授だ。
確かに気象庁の統計によれば、年間の真夏日や熱帯夜の日数は増えている。が、それ以上に患者増の理由として考えられるのは高齢化だという。消防庁の統計では、熱中症で搬送される人の半数近くが65歳以上の高齢者だ。
人間は体温が一定以上になると、血管を拡張して血流を促すことにより皮膚から放熱したり、汗腺の活発化によって汗を流して体温を下げようとするが、
「高齢者は年齢と共に皮膚の血流が低下し、発汗の機能が衰えるので熱中症にかかりやすい。今後は高齢者人口が増加するのに比例して、熱中症患者が増えるでしょう」
と能勢氏は指摘する。
「日本人が暑さに弱くなった」というより、「暑さに弱い日本人が増えた」から、患者数が増えているというわけだ。
気象が生物に与える影響を研究している日本生気象学会が取りまとめた『日常生活における熱中症予防指針Ver.3』によると、熱中症での死者数に占める65歳以上の割合は1995年に54.4%だったが、2010年には79%に増加している。また、高齢者が自宅で発症する割合は45%を占めており、睡眠中の発症も多いとして高齢者へ注意を促している。
※週刊ポスト2014年8月15・22日号