結婚したいけど相手がいない女性の心情を綴った橋本治さんの新作長編『結婚』(集英社/1620円)。この作品には一体どんな思いが込められているのか? 橋本さん本人に話を聞いた。(取材・文/佐久間文子)
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直球ど真ん中のタイトルである。
「60才過ぎた男が何でこんな小説? って感じですけど、結婚について考えさせなきゃいけないなと。『早く結婚しなよ』って要するに議会のセクハラやじ飛ばすおやじと同じ発想(笑い)。でも、物は言いようで、言うからには考えて言わないとね」(橋本治さん、以下同)
小説の主人公は、旅行会社に勤める28才の倫子。恋愛は苦手だが、「卵子が老化する」と知り、にわかに結婚が現実の問題として目の前に立ちふさがる。友人の結婚。兄の結婚。元彼の結婚と離婚。どれもしっくりこない倫子は「自分の結婚」について真剣に考え始める。
「今の時代、結婚って、何だかもやもやしてよくわからないじゃないですか。そのあたりの『結婚のアマチュア』的状況を、全部小説に書いてみようと思いました」
倫子は「相手がいない」と認識することから一歩を踏み出す。どうすれば相手が見つかるか教えてくれる人もいないまま、自力で相手を見つけなければならない現実がそこにある。
「卵子老化の問題が出てきたのは、『早く結婚する』ことの動機づけになりますね。これまでは、子供を産むという生物学的な制限があるのに、個人の主張する自由を社会が追認していただけといえますから」
老いについてもそれは同じことで、かつては40才なら大体これぐらい、50才ならこう、という共通認識があり、それに合わせて年をとることもできた。「それが今は、自分の外側に基準がなくなり、老いを病気のように考えてしまう」と橋本さんは言う。
「『美魔女』なんて、少女の干物みたいなものじゃないですか。ある意味、今は女性をわがまま放題の女子高生のまま放置しているところがあると思うんです。『ありのままで♪』って歌うんなら、つけまつげはずして歌えよな、って思いません?」
小説の中の、《女にとっての結婚は、多く『男と結婚する』ではなく、『自分の結婚と結婚する』だ》──は至言。自分なりの結婚を考える女に比べて、男は無造作で無防備に見える。
結婚が「女の問題」とされてしまう社会を「優しくない」とも。
「女が結婚しないし子供を産まないのは問題だって言うけど、なぜ女が結婚しなくてもいいという選択肢を持つのか、結婚したほうがいいって思わないのか、それを考えない限り打開策なんて生まれないと思うんだけど」
自由と自己肯定に流れる世の中を、それでいいのかと考えさせる。
「流れの前に立ち塞がれるとは思わないけど、皮肉ぐらい言っておきたい。年寄りしか言わないようなことをこの本では書きたかったんです」
※女性セブン2014年8月21・28日号