「日本一のスケベ」を自称する100万部雑誌の編集者の活躍を描いた『JUNK BOY』は累計500万部を超えるヒットとなり、本誌連載で話題を呼んだ『×一(バツイチ)』は19巻を数えた。『100億の男』『幸せの時間』など映像化作品も多い漫画家・国友やすゆき氏は、かつて三流劇画雑誌で研鑽を積んだひとりである。
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1977年に『チャンスコミック』という劇画雑誌の創刊号の仕事の話をいただいて、江戸川乱歩の『人間椅子』を描いたんだよ。大学在学中の1974年に『少年ジャンプ』でデビューして手塚賞の佳作をもらったけど、その後鳴かず飛ばずで10年くらい“ドサ回り”をしていた。その一環だね。
当時は雑誌も描き手も玉石混淆。ひどい雑誌も多かった。電話1本で依頼がきて、こっちも「描きますよ」って返事するんだけど、打ち合わせもなく執筆がスタートする。それで描き上がったらバイトが取りに来ての繰り返し。連載終了時の挨拶で初めて担当の編集者と顔を合わせるなんてこともあった(笑い)。
それでも商売になっていたほど、あの時代の漫画の勢いは凄かった。僕も多いときで月150枚は描いてたな。レギュラーのアシスタントなんて当然いないから、早大の漫研の後輩呼んできて描かせたりしたよ。
そのうち人の縁が繋がって、少年誌でエロなしの作品を描くようになった。同時に劇画誌でエロもあるドタバタコメディの読み切りを描いたりもしていて、それが『漫画アクション』で連載した『JUNK BOY』に繋がったんだよ。ジェットコースター的な展開の中にエロの要素もある──それが自分のスタイルになっていった。
大人のエンターテインメントを考えたときに、僕は「欲望」が重要なテーマだと思ってる。高尚なものもあっていいけど、漫画が本来持っていた俗で下衆なパワーは失ってほしくない。僕の持ち味もそういうB級テイスト。疲れたお父さんが読み捨てにするもの、ラーメン屋で何も考えずに読むものでいいんだよ。
その後思いついたのが『幸せの時間』や『×一(バツイチ)』などのホームドラマ。家庭が持っているエロスだった。サラリーマンがいて家庭があって、そこに性の話が出てくるんだけど、読者も距離感が近いからリアリティを感じてくれる。
それまで家庭のエロスをテーマにした漫画ってなかったんだ。ホームドラマはあっても、本来そこにあるべきものが描かれてない。僕はそんなタブーを描こうと思ったんだ。家庭の根本とは、男と女が一つ屋根の下で暮らして、夫婦生活をすること。性は夫婦にとって大前提のはずなのに、隠さなきゃいけない。だから齟齬が生まれる。そこが面白い。
僕はこれからも人間の欲望にスポットを当てる作業をしていくよ。
※週刊ポスト2014年8月15・22日号