いわゆる従軍慰安婦のデマは、いまや世界中に拡散し、欧米では「慰安婦=性奴隷」という誤ったイメージが定着してしまっている。その原点は、朝日新聞が報じた強制連行の「誤報」だろう。
「自分は朝鮮半島で950人の女性を強制連行して慰安婦にした」とウソの告白をした著述業・吉田清治氏(個人)に騙されたのは事実だが、そもそも朝日新聞の報道姿勢に疑問を投げかけるのが、元ソウル特派員として慰安婦問題を取材した記者の前川惠司氏(現ジャーナリスト)だ。
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朝日新聞が慰安婦問題で、「挺身隊と慰安婦をごちゃ混ぜにして報じた」と、批判され、矢面に立っているのが、大阪本社発行の朝日新聞1991年8月11日付の「思い出すと今も涙 元朝鮮人従軍慰安婦 韓国の団体聞き取り」だ。
このソウルから植村隆記者が報じた記事は、元慰安婦の一人が初めて公に名乗り出たことを報じたものだが、批判されているのは、
<日中戦争や第二次大戦の際、「女子挺身隊」の名で戦場に連行され、日本軍人相手に売春行為を強いられた「朝鮮人従軍慰安婦」のうち、一人がソウル市内に生存していることが分かり>
としたくだりだ。年配の方はよくご存じだろうが、「女子挺身隊」とは、戦時中の国家総動員体制で、工場に働きに行かされた14歳以上25歳以下の若い女性たちの勤労奉仕隊のことで、慰安婦とは無関係のものだ。
どうしてそんな錯覚が、そのまま何重ものチェックを通って紙面に載ってしまったのか。もっとも、この記事は、翌日の東京本社発行の朝日新聞にも載っているが、こちらでは字数は半分近くに削られ、問題となる、「『女子挺身隊』の名で戦場に連行され」の部分は削られている。
だが、「その後の紙面でも女子挺身隊を慰安婦とした記事がなくならなかった」と、強烈に批判されている。どうして、そんなことになったのか。
こんな単純な間違いは、正直なところ、とっくに訂正記事が出ていると思っていたが、すでに20余年にわたって慰安婦問題が日韓の大懸案となり、津波のような報道が何回か、大波が押し寄せて来ては、引いていくように繰り返しなされるなかで、挺身隊と慰安婦を混同したかのような記事の存在が、1995年の慰安婦を「強制連行された性奴隷」と認定した国連クマラスワミ報告や、2007年の慰安婦に対する日本政府の謝罪を求めた米下院121号決議などにつながったとしたら、報道の在り方として、大きな問題なのは、当然だろう。
もっと早い段階で誤りを正しておけば、これほどまでの深刻な日韓関係をもたらさなかったし、日本の国家イメージが国際社会でダメージを受けかねない事態を招くことはなかったという主張だ。
※SAPIO2014年9月号